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人事・労務

第85話 味の素の「労働時間短縮」実現までの取り組み

「賃金の誤解」

賃金管理研究所 所長 弥富拓海
http://www.chingin.jp
 
 2016年春闘を振り返ると、今年は社員の働きやすい環境整備への取り組みが広がったという点で、大きな変化がありました。
 
 例えば、(1)ホンダの65歳定年延長、(2)味の素の1日20分の時間短縮、(3)パナソニックの介護費用や病児保育への補助、(4)日立の介護による休職時の給付金制度、(5)トヨタ自動車の託児所の拡充策などです。こうした動きは、従業員にとっての働きやすい環境づくりというだけでなく、労働人口が急速に減少する時代への布石であり、人材の定着率を高め、流出を食い止めるため、大手企業も具体的な施策を打ち出したということなのです。
 
 そうした事例から、働きやすい環境整備の一環として時間短縮への取り組みを説明する味の素の考え方を、報道されている記事を基に少し掘り下げてみたいと思います。
 
 2016年の春闘交渉で味の素は、労働組合がワークライフバランス推進のため、労働時間の短縮を求めたことを受けて、会社は1日20分の時間短縮を回答しました。
 味の素の所定労働時間は現在7時間35分ですが、2017年4月からは7時間15分に変更となります。
 
 この時間短縮の実現には4つのポイントがあると東洋経済の記事は解説しています。
 
第1のポイント:労働時間短縮のために様々な仕組みを整備するだけでなく、それを利用する社員の意識変革を重視する
 例えば、味の素では、「働き方計画表」という社内ツールを各職場で利用しており、社員各自が残業時間や有給取得日など自己の労働時間を計画し、上司や同僚と共有することで、「労働時間への感度」が高まり、同時に有給休暇の取得も全社的に促進されました。同時に部署ごとの総労働時間目標値が設定され、実績との比較分析がやりやすくなり、管理監督職者のチーム全体の労働時間の効率化に対する意識も高まりました。
 
第2のポイント:労働時間短縮の取り組みは全社的に展開する
 「その部署の最も効率の良い働き方を考えることができるのは、その部署自身に他ならない」との考えから、トップダウンではなく、「各部署への権限移譲」と「人事部はアシスト」に徹したことで全社的展開が進みました。
 
第3のポイント:ワークライフバランスやダイバーシティ(多様性)の尊重
 労働時間短縮に対する取り組みそれ自体が最終目的ではなく、その上位概念であるワークライフバランスやダイバーシティの実現のための手段の1つとして位置づけられています。
 
第4のポイント:経営トップのコミットメントによる裏付け
 「味の素は各事業に参加する全ての人の人間性を尊重し、その人が成長し、能力を最大に発揮できる集団になります」。この経営理念に裏打ちされて、労働時間短縮への取り組みが全社に浸透しているのです。
 
 会社と社員が一体となって、さまざまな職場改善活動に取り組んできたからこそ、労働時間の短縮が実現できるわけであり、これは味の素に限らず、労働生産性の向上を追求するあらゆる企業にとっても参考になる事例ではないでしょうか。

 

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