最近は、中小企業でもホールディングス(持株会社)をつくる会社が増えています。いわば“はやり”のようになっていますが、多くの経営者と話をしていると、みなさん、ホールディングスに対する理解があいまいであるように感じます。
ホールディングス体制の一般的な形は、ホールディングス会社が各事業会社の株式を保有しているというものです。つまり、ホールディングスを頂点として、その下に、いくつもの子会社がぶら下がっている状態です。
今回は、グループ経営という観点から、ホールディングス体制の長所、短所を確認してゆきます。まずは長所(メリット)として5つあります。
長所(1)1社に1人の社長が生まれる
ホールディングス体制のもとでは、子会社である各事業会社に1人の社長が生
まれます。そしてその社長には、権限を与え、その代わりに、責任も課します。
この場合の責任とは、業績責任(P/L)です。子会社には、稼いだ利益のうち、一定割合を配当させるなどして、資金を吸い上げます。
併せて、各社の社長には、相応の報酬(年収1,000万円~1500万円)も払います。権限と責任、報酬が与えられれば、間違いなく人材は成長します。
オーナーに子供が複数いる場合は、兄弟を1つの会社に入れると、後で揉める可能性が出てきます。その場合、ホールディングス体制を敷いて、それぞれを各社の社長に据えて、経営者としての能力を見極めることも有用です。
長所(2)戦略と事業の分離
せっかくホールディングス体制を敷いていても、ホールディングスの役割が、明確に定まっておらず、中途半端になっているという会社もよく見受けられます。
ホールディングスの役割としては、例えば次のようなものが考えられます。
・グループとしての理念、経営戦略、方針策定
・人事組織、管理機能(計画、予算策定)
・資金コントロール(資金調達、内部吸上げ)
・内部監査(業務監査、会計監査、品質監査)
ホールディングスの役割は、グループ全体の方向性や戦略を決めるとともに、それを事業会社が実行するための土台(仕組み)をつくることです。
子会社である各社は、与えられた資源を使い自社の事業で成果を出すことに全力を注ぎます。ホールディングスと各事業会社の役割は明確に異なります。
ホールディングス化をお手伝いしたある会社のトップいわく、
「これまでは単に、各社のことだけを考えていました。ところがホールディングスになると、もっと広い視点でグループ全体を見る必要があるため、視野が格段に広がりますね。」
ホールディングスにはこのような効果もあります。
(3)能力がない実子の受け皿
これまで500社以上のオーナー会社を手伝ってきましたが、オーナー経営者の子供がオーナーと同じように経営手腕があるとは限らない、とつくづく感じます。オーナーが、カリスマであればあるほど、お子さんにかかるプレッシャーは強く、オーナーとは真逆のようなタイプに育ってしまうケースも多いです。
一代で素晴らしい会社をつくりあげたオーナーのなかには、
「後継者に世襲はさせない。能力があるものが継げばよい。」と宣言される方もいらっしゃいます。しかしながら、オーナーも父親です。やはり本音のところは、我が子がかわいく、できるなら跡を継がせたいと思っているのです。さらには、奥様はじめ他の家族には、ある程度の安定収入を与えたいとも考えます。
その場合、事業会社の経営は有能な幹部に全面的に任せ、オーナーの子供をはじめ一族は、ホールディングスにのみ関与させる体制にするのも手でしょう。
ホールディングスには、子会社株式のほか、不動産を持たせるなどして、配当、賃貸収入といった安定収入を得る資産管理会社とするのです。
“所有はすれども、経営せず”
いわゆる、所有と経営の分離をホールディングスを通じて実現するのです。
(4)会社を買う、売るに向く(M&A)
最近は、中小企業でもM&Aはますます増えてきています。
会社を買うということは、当然、株式を譲り受ける(買い取る)ということですが、
その受け皿を、ホールディングスにするのです。
各社をホールディングスの子会社とする(ぶら下げる)ことで、変に序列意識が生まれることなく、ホールディングスに対してどのようにして収益貢献してゆくか、を考えさせるのです。その逆で、グループ会社が、もはやグループでいる意味がなくなったと判断すれば、ホールディングスから切り離すのです。
グループにくっつける、あるいは、グループから切り離す。
これをホールディングス中心に考えれば、分かりやすく組織運営ができます。
(5)制度、報酬体系を別にできる
上記とも関連しますが、M&Aの方法の一つとして、「合併」があります。
合併の場合は、2つの会社が1つの会社になり、当然、社内制度、報酬体系を一つにしてゆかなければならなくなります。しかし、M&Aは、会社同士の結婚です。これまで育ってきた環境、文化が大きく異なるため、いきなり一つになるというのはハードルが高いのです。この場合、ホールディングス体制にすることで各社の個性を活かしつつ、グループ化が図れるのです。
また、企画、開発、デザイン、IT、システムなど、専門職と呼ばれる人材の受け皿としても、ホールディングスは活用できます。一般的に営業マンや製造マン、管理マンの方たちには、いかに生産性をあげるか、効率をあげるかが求められ、実際にそういう人材が集まってきます。上記のようにクリエイティブな仕事をこなす専門人材とは、求められる資質等が異なります。待遇面でも、大きく差をつけなければ、有能な人材を確保できません。これをすべて一つの会社に混ぜてしまうと、社員間で不協和音が生まれかねません。そこで、ホールディングスの下に別会社を作り、その会社が専門職を抱えるようにするのです。
以上5つのメリットを述べましたが、当然ながらデメリットもあります。
ここでは2つご紹介しておきます。
(1)なわばり意識が生まれる
ホールディングス体制では、ホールディングスの下に各事業会社がぶら下がり、業績を比較されます。各社には、当然、「他のグループ企業に負けたくない!」と対抗意識が芽生えてきます。競争という意味では、健全なのですが、この意識が強すぎると、いつしか、縄張り争いにつながります。結果的に、グループの利益よりも、自分たちの利益を最優先して意思決定を行ったり、他社の足を引っ張るような行動をとったりして、グループ全体の経営力UPにつながらないこともあります。
(2)仏作って魂入れず
ホールディングスを設立すると、多くのケースでは、ホールディングス会社は、
各事業会社から「経営指導料」を受け取ります。そうして、ホールディングスの収益を作ってゆくケースが多いのです。
しかし、このとき、ホールディングスの役割が中途半端になってしまうと、
「ホールディングスはたいした仕事していないのに、高い指導料を取られる・・・そもそも経営指導なんて何一つしてないのに・・・」と思われてしまいます。
各社から、不平不満が生まれ、やがてこれが経営トップへの不信感につながり、グループがバラバラになってしまうこともあります。
だからこそ、ホールディングスの設立、導入の際には、時間をかけてしっかりと議論し、制度設計を行う必要があります。なぜ、ホールディングスをつくるのか、幹部へ説明し、ホールディングス体制に対する理解を得る場を作っていただきたいのです。何となく設立することだけは、おやめいただきたいのです。