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<事例―37 中村ブレイス(B2BとB2C)>世界に誇る技術力で義肢装具を製作し、世界中の人々から感謝されている企業…それが「中村ブレイス」だ

酒井光雄 成功事例に学ぶ繁栄企業のブランド戦略

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 ●障害を持つ人たちのクオリティ・オブ・ライフに貢献する企業
 
 中村ブレイス(中村俊郎代表)は「石見銀山遺跡とその文化的景観」としてユネスコの世界遺産に登録された島根県大田(おおだ)市大森町に立地し、1974年に創業(1982年に設立)、資本金2,000万円、売上高10億円、従業員数80名で義肢装具(義手や義足、人工乳房、装具など)の製作を行う企業だ。卓越した技術力による同社の義肢装具製品は世界30ヶ国から注文を受け、障がいを持つ人たちの暮らしに貢献している。
 
 中村ブレイスが手掛ける事業は、シリコーンゴムを使用した義肢関連のクッション、アキレス腱断裂用装具、足関節用装具、外反母趾用装具、足底装具を始めとする汎用品の製造販売と、同社内にあるメディカルアート研究所が「メディカルアート(同社の造語で、医学と美術を融合させたという意味)」と呼び、シリコーンゴムを使いオーダーメイドで受注する人工乳房「ビビファイ」、人工補正具「スキルナー」、人工肛門用装具「ジャストーマ」など身体の様々な部位の製作を行う事業に大別される。
 
 ●経営基盤を強化するための取組み
 
 義肢装具業界は景気変動や社会トレンドといった外的要因の影響を受けにくく、市場は安定していた。そのためこの業界では従業員が10名規模の零細業者が600社も存在していたが、小規模企業も何とか淘汰されずに来た。しかし同社では経営を安定させるため、新たな製品開発に取組む。それがシリコーンゴム製足底装具の製品化だ。
 
 シリコーンゴムの成形が難しく高価だった時代に、ビニールと違って通気性がよく、肌触りが優しく、劣化しにくい点に経営者の中村氏は着目し、足底装具(靴の中敷き)の開発に着手する。膝や外反母趾の痛みを緩和する足底装具(靴の中敷き)は医療用具として非常に重要だが、従来は革やコルクが使われており、使い勝手が悪かったからだ。
 
 型枠に適した素材研究や、成形時に発生する気泡を除去する方法といった試行錯誤を繰り返し、製品化までに1年近くかけてようやく成功、日本を含めて9ヶ国で特許を取得した。
 
 義肢装具は毎日使うため、装具が傷み変形することがある。また装着する人の身体に変化が生じることもあり、かかりつけの医師のアドバイスを受け、微調整を施す必要があった。こうしたきめ細かい要望に応えるには、近隣の病院と連携して何か問題があればすぐに対応できる企業の存在が必要になる。
 
 そこで、同社はこの足底装具を独占販売せず、全国の義肢装具会社に委託販売する方法を選択する。同社だけでは患者さんのフォローに手が回らないためだ。世界初のシリコーンゴム製足底装具を開発して以降、経営は軌道に乗り、同製品の累計出荷数は150万個を超えた。
 
 ●社会貢献に軸足を置いた「メディカルアート」
 
 汎用品の製造販売と並んで同社の社会的評価を高めているのが、メディカルアート研究所がシリコーンゴムを使ってオーダーメイドで受注する「メディカルアート」部門の事業だ。造型や着色はすべて手作業のため、受注から完成まで2~3ヶ月の時間を要する製品群だ。
 
 乳がんの手術で乳房を失った女性のためにつくられる人工乳房「ビビファイ」は、透けた血管や皮膚の色むらまで再現され、湯上がりにほんのり赤みを帯びるように工夫されている。入浴して身体が温まっているのに、片方の乳房が白いままではいけないという配慮からだ。
 
 この製品は装着していることを忘れると評判になり、発売以来3,000人以上の女性たちに愛用されている。また事故や腫瘍手術などで身体の各部位を欠損した人のために、腕や手、指などを再現してつくり上げる。
 
 メディカルアート部門は同社の徹底したこだわりによりコスト増になるが、保険が適用されないため、必要とする人たちのために採算を度外視した低価格設定を行っている。そのためメディカルアート部門単独では赤字だが、収益性の高い汎用品で利益率の低下を抑える経営方針を堅持し、創業後20年を経てからは無借金経営を続け、近年は15%前後の経常利益率を確保している。
 
 
<「中村ブレイス」の事例に学ぶこと>
 
 障がいを持つ人たちのためになくてはならない企業として、患者さんの使い勝手を考えた販路と販売方法の設定視点は誰にでもできることではない。時代を超えて社会に求められる企業になるには、こうした英断が必要になるのだろう。
 
 同社が立地する大森町の人口は約400人で、65歳以上の住民が40%近くを占め、人口は減少の一途をたどる。こうした中で中村ブレイスは江戸時代の武家屋敷や廃屋寸前の古民家などを購入し、同町への移住者などを対象とした賃貸住宅や店舗、従業員用社宅として費用をすべて自己負担で再生。その数は43軒にのぼる。
 
 また大森代官所跡に地元有志が設立した石見銀山資料館を改装、さらに宿泊施設「ゆずりは」を建設し、国内外から同社を訪れる患者さんや観光客の利便を高めるなど、文化財の保護や活用を通じて、地域の活性化にも貢献している。
 
 中村ブレイスは本業と社会貢献活動が一体化した企業活動によって、自社のブランド力を高めた最良のお手本といえるだろう。
 
 
 
 
 
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