ロンドン滞在中のある日、
懇意にしている書籍編集者から、一通のメールが届きました。
"ある本"について、ぜひ語らいたい、と。
どちらかというと寡黙な彼が、
わざわざそんなことを伝えてくるとは珍しい。
ただならぬものを感じた僕は、
帰国後、すぐさま書店へ。
一回読み終えた後、
そのまま続けざまに二回目を読み終えた。
僕の読書においては、本は一回読んで終わることが大半です。
特別に気に入った本なら、ある程度の時間を空けた後で
二回目、三回目となるため、今回は異例。
実は今、三回目を読むのを自重しているほどです。
なぜなら、本書を読むと、のめりこんでしまい、
他のことに全く気が向かなくなるからです。
読むのが怖い（笑）
これほどの本には、一年に何度出会えるか。
それが、今回ご紹介する
『VTJ前夜の中井祐樹』です。
著者は増田俊也氏。
ベストセラー『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』、
『七帝柔道記』に続く、「柔」三部作の完結篇という位置付けになっています。
表題を始めとする４つの小編から成りますが、
そのいずれもが、濃い。
総合格闘技の創世記、まさに命を懸けて戦い、
あの４００戦無敗のヒクソン・グレイシーをして
「真のサムライ」と言わしめた男、中井祐樹を描いた
『VTJ前夜の中井祐樹』。
五輪金メダリストで天才柔道家・古賀稔彦を
背負い投げで破ることを心に秘め、ひたすら己を磨き続け、
ついに８年越しの想いを成就させた男、堀越英範。
それでも、五輪代表に選ばれなかった不遇の柔道家の
知られざる生きざまを描いた『超二流と呼ばれた柔道家』。
他の２編も含め、
いわゆる日の当たるような話でも
アメリカンドリームのような成功物語でもありません。
著者の増田氏は、そんなマイナーなものを書かずに、
メジャーを目指した方がいい、とたびたび言われるらしい。
それに対しては反論せずに黙っているとのことですが、
本心は
「はっきり言うがマイナーな話なんかじゃない。
偉大なる物語だ」
と。
経営者には、この気持ち、痛いほどよくわかるのではないでしょうか。
そして、誇りをより強く持てるのではないでしょうか。
混迷の現代において、生きること、働くことの意味、
その答えの一つがここにあります。
４つの小編の最後にあたる、
著者の先輩で医師、住職でもある和泉唯信氏との対談も
見逃せません。
「一体どこへ進んだらいいのか」
と問う増田氏に対して、
「後ろを振り返りながら進みんさい。繋ぐんじゃ。
思いがあるかぎり必ず繋がっていくんじゃ」
と答えるやりとりは、特に印象的。
当対談での和泉唯信氏の言葉は、実に深く、
これだけでも一冊のビジネス書ができるくらいです。
男が心から泣ける本です。
明日へのエネルギーにあふれてきます！
経営者必読ですね。
これを読まずして、他に何を読む？
とすら思います。
尚、本書を読むときに、おすすめの音楽は
『セロニアス・モンク・トリオ+2』です。
孤高の巨人、セロニアス・モンク、魂の演奏は、
本書の熱き主人公たちとどこか通じるものを感じます。
ぜひ合わせてお楽しみください。
では、また次回。
