スポーツの世界では、「名選手、名監督にあらず」とよく言われます。
同様に、ビジネスの現場でも――
卓越したビジネスマンが、必ずしも優れた経営者や指導者になれるとは限りません。
むしろ、一個人として突出した能力を持つ人ほど、
組織や人を育てるという役割に壁を感じることが少なくありません。
そんな中で、異彩を放つ存在がいます。
陸上・ハンマー投げでアジア競技大会5連覇を果たし、
「アジアの鉄人」と称された室伏重信氏です。
彼は、歴史に名を残す偉大な競技者であるだけでなく、
アテネ五輪ハンマー投げ金メダリストの室伏広治氏を始め、
多くのアスリートを育て上げた名指導者としても知られています。
今回ご紹介する
『野性のスポーツ哲学』(著:室伏重信)
は、室伏氏の自伝であるとともに、
彼の指導哲学を余すところなく綴った集大成ともいえる一冊です。
本書は、室伏氏が80歳を迎えるにあたり、自らの生きてきた道を記録に残すべく、
遺言のような気持ちで執筆を始めたとのこと。
大きく分けると、前半は自伝、後半は指導論、
巻末には長男の広治氏との対談も収録。
自らの能力を伸ばすために工夫してきたこと、
また、指導者として何を大事にしてきたのかが、具体的に伝わる構成になっています。
たとえば、潜在能力について、次のような文があります。
「可能性があるということは、潜在する能力を秘めているということでもあり、
その潜在能力を引き出すことが、パフォーマンスの向上につながる。
だが逆に、経済的にも生活環境にも問題がなく、安定してそれが長く続くと、
人の潜在能力は発揮されないことが多い。
何不自由のない生活を長く続けると、人は社会生活を営むことができないほど弱くなる。
名家や一族経営の会社は「三代目で潰れる」といわれるが、
これはまさに、潜在する能力を引き出さなくとも、
十分生きていくことができる環境に生まれついているからだ。」
さらに
「潜在能力とは自分がこうしてみたいと思うときに、
必然的に引き出される力である。
だから、関心のないことをしていても、それ以上の力は出てこない。
要するに、自分が持っている能力でまだ発揮していないものがあるだけで、
その力を発揮しなければいけないときに現れるのが潜在能力なのである」
と語っています。
それを踏まえて、いかに指導していけばいいか、
具体的な事例を交えながら綴られているところは、とりわけ一見の価値があります。
また自らを「ネアンデルタール人の遺伝子を強く受け継いでいる」と考え、
ネアンデルタール人について考察するなど、マネジメント視点を抜きにしても、
読み物として十分面白い内容になっています。
手軽な新書サイズながら、経営者、リーダーが知っておきたい、
学ぶべき点にあふれる入魂の一冊、ぜひ読んでみてください。
ヴィブラフォン奏者として、ジャズ・ロックの先駆者である一方、
バークリー音楽大学の副学長として多くの名ミュージシャンを育成したことで知られています。
ギターの巨匠パット・メセニー、日本を代表するピアニスト小曾根真など、枚挙に暇なし!
本作は初期ジャズロックの名盤として、創造的エネルギーあふれる一枚です。
本書と合わせてお楽しみいただければ幸いです。
では、また次回。