ホルモンを代表する内臓系の肉を提供して繁盛している焼肉店「炭火マルイチ」(東京都世田谷区)の
店舗立地は住宅街、道路沿いで駐車場もなく、コンビニの2階でどちらかといえば二等立地の焼肉屋。
各駅停車の小田急線東北沢駅から歩いて2、3分、看板も目立たない。
常連客、口コミ客が大 半で周辺に住む有名人も常連という繁盛店である。
マスコミにもよく紹介され、知る人ぞ知る焼き肉屋である。
開業して9年、店主の田島一彦さん(49歳)は、過去に料理人として洋風のシェフ、
パティシエを修業、さらに食材の卸 の仕事(営業)を経験している。
「安くていい肉を食べさせてくれる店」といえば、繁盛店ならどこにでもありそうな店ということになるが、
マルイチを一度利 用した人は、リピーターになる確率は9割以上という常連客で成立している店である。
「自分が旨いと思ったものは何でも仕入れます」(田島店主)。
なぜ、同店が焼肉店として繁盛しているのか。
「手ごろの値段で、上質の肉を食べさせてくれる」ということがベースにあることは確か。
なぜ、常連客が増えて いるのか、という理由が他店と違う焼き方を丁寧に教えるという隠れたサービスがある。
通常、焼肉の商売は、「いい食材を提供すれば、人件費もかからず、いい商売」というが、実はここに落とし穴がある。
ちょっと変えたところ、変化が起きた。
店主の田島一彦さんは「商品がいい、というだけでは不十分。お客さんが食べて“本当に美味しかった”と言わせなければ
ダメ。微妙な焼き方で満足度が違います。お客に一つ一つの部位(メニュー)の焼き方を教えます。
上手く焼ければ、ほめてあげます」という。
一度来たお客は、他の人と来て、自分が覚えた焼き方を教える、という口コミのノウハウになっているという。
いくらいい食材を提供しても焼き方がまずかった ら、満足度は低い。
その部位のいい焼き方を教えて、満足度をあげるという、『焼き方も含めた美味しい食を提供する』
ということを徹底したら、常連客が着実に増えたというのである。ベテラン女性スタッフの接客も独特である。
一度でも来店していると、「お久しぶり」と気楽に声をかけ先手を打つ、フレンドリーなちょっとした会話を して接客する。
これは常連客が増えるもう一つの要因でもある。
田島一彦店主は
「自分でお金を出して食べるつもりで仕事しろ」
「仕事の目標を持て、そこに向かっていれば、いい仕事ができる」
と 言うのが持論だ。
田島氏は5年後にニューヨークに店を出したい、という目標を持つ。
実現するかどうか、も大事だが、日々、目標を持った仕事が繁盛への道で あると確信している。
「お客が大事」「夢を持つ」というシンプルな口ぐせだが、どこまで徹底するかである。
上妻英夫