農業ビジネスに対する関心度は日増しに高まっている。農業を儲かるビジネスに変えるために、各社が競い始め参入企業も増えている。中でも、注目を集めているのが農業創造型のベンチャー企業として脚光を浴びているのが株式会社農業総合研究所(本社・和歌山市)である。成長企業で、全国に12箇所の集荷場、約3000の登録生産農家、全国の大手スーパー、ホームセンターなどと取引を行っている。
生産農家と消費者を結ぶ、新しい農業の仕組みを実現している。従来の生産者、農協、代理店(問屋)、小売業のルートではなく、“生産者にリスクを負ってもらい、自分で生産物の価格を決める”という新しいやり方である。屋号は「都会の直売所」で、大手スーパーの野菜コーナーを設置している。全国に農産物の直売所は約1万5000箇所あるといわれている。大半が農家の近い地方にある。「都会の直売所」のコンセプトで人口の多い都市部に農産直売所を開設している。
「汗水たらして作った農産物が二束三文で扱われる」「農家の手取り額が低すぎる」「生産農家と消費者の関係が“顔の見えない”状態になっている」。農業総合研究所の及川智正社長(37歳)は生産農家を自ら経験した上で、「農業を産業にしたい」「持続可能な農業ができないか」という発想から会社を興した。及川氏は農業大学を卒業した後、専門商社のサラリーマン生活も経験したが、妻の実家(和歌山市)で新規就農を経験する。
農業経験後、「農業の仕組みを変えなければ・・・」という衝動にかられ、6年前に生産農家を重視した仕組みを考えて独立した。新しい農業の仕組みとは、生産農家が「価格を自分で決める」「売り先も自分で決める」「売れないときは生産農家がリスクを負う」という新しいシステムである。ある生産農家は「大量で出荷するときは価格が低すぎました。今は、捨てていたものや形の悪いものでも、出せば売れます。売れなければ自分たちの責任ですが、おかげさまで売れています」という。
大手スーパーも「都会の直売所」のコーナーを設置し始めたのは、消費者を集める集客力に魅力を感じているため、コーナーづくりが増えている。言い換えれば、生産農家が流通を選び、価格を決めているという、新しい仕組みである。「都会の直売所」の農産物はセリにかからない分だけ、生産農家の息遣い、やる気が直接に消費者に届くというのが最大の特徴で、消費者にも徐々に支持され始めている。
同社は生産から加工・流通・販売・消費までをバランスよくコーディネートし、農産物が消費者の口に入るまでを企画提案する農産業が自社の使命と捉えている。主要業務は「農産物委託販売システム」「農産物流通販売事業」「農業コンサルティング事業」である。「農産業の確立」に向けて走り続けている及川氏率いる農業総合研究所は変化する農業ビジネスの中で、新しい波紋を投げかけている。
上妻英夫