menu

経営者のための最新情報

実務家・専門家
”声””文字”のコラムを毎週更新!

文字の大きさ

マネジメント

万物流転する世を生き抜く(5) 敵の主戦力を非戦力化する

指導者たる者かくあるべし

 北イタリアに攻め入ったカルタゴ軍を率いるハンニバルは、アルプス越えで2万6千人にまで減少した兵力の補充に迫られていた。
 
 そのためにも、ローマ軍相手にまずは一戦交えて、現地で模様ながめのガリア部族にカルタゴ優位を印象づける必要があった。
 
 現在のトリノ周辺で数日間、略奪した食糧で英気を養ったカルタゴ軍は、ローマ軍を求めて東へ向かう。
 
 索敵に出たハンニバルの騎馬部隊が、敵の索敵隊と遭遇し、これを撃滅する。狙い通りカルタゴ軍に合流するガリア部族が増えた。
 
 これは偶発的な戦闘だったが、やがて両軍は双方それぞれ4万の兵が激突する本格的会戦に臨む。トレビアの戦いである。
 
 戦闘における戦術の要諦は、敵の主戦力をいかに非戦力化するかにかかっている。
 
 たとえば、競合社の営業力が圧倒的なら、営業力で対抗せずに商品力で戦う。商品の性能で劣るなら、価格で対抗して相手の優位性を消してしまうようなことだ。
 
 ローマ軍の主戦力は重装歩兵だ。一糸乱れぬ戦闘力で中央を突破し敵を撃破する。
 
 カルタゴ軍には、敵を蹴散らす象部隊と、騎馬の本場である北アフリカから連れてきた精強なヌミビア騎兵がいる。
 
 戦いの火ぶたが切られるや、降り注ぐ矢に驚いた象たちは興奮して四散してしまった。戦わずしてカルタゴ主戦力の一つは消えた。
 
 ローマ軍の重装歩兵たちは勝利を確信して敵の中央に突入し、ガリア人主体の軽装歩兵を押しまくる。
 
 しかしハンニバルは慌てなかった。策は講じてあった。敵の主力と当たる中央よりも両翼に戦闘力のある強力な歩兵を配していた。
 
 その外側には、ローマ騎兵を数と戦闘力で圧倒するヌミビア騎兵がいる。
 
 騎兵戦で押し込んで空いた敵の側面に主力の歩兵と騎兵が回り込む。ローマの重装歩兵は押せば押すほど敵に包囲される形になった。
 
 さらに、林の中にあらかじめ配置しておいた騎兵と歩兵の伏兵2千が背後から襲いかかる。四周を包囲されては、重装歩兵も戦う術はない。殺し尽くされてしまった
 
 この敗北をローマ軍は、「騎兵の差だ」と受け止めた。重装歩兵の突撃の有効性を疑うことはなかった。長年培って来た戦術を改めることは難しい。主戦力に絶対的な自信があればこそ変革の必要性に気づくのは遅れる。
 
 見渡せば、どこにでもそんな事例はある。
 
 二年後、同じ過ちを犯したローマ軍が壊滅の危機に追い込まれようとは、まだ知るべくもなかった。 (この項、次週へ続く)
 
 
 ※参考文献
 
 『ローマ建国以来の歴史5』リウィウス著  安井萠訳 京都大学学術出版会
 『歴史1』ポリュビオス著 城江良和訳 京都大学学術出版会
 『ハンニバル 地中海世界の覇権をかけて』長谷川博隆著 講談社学術文庫
 『ローマ人の物語Ⅱ ハンニバル戦記』塩野七生著 新潮社
 
 
 
  ※当連載のご感想・ご意見はこちらへ↓
  著者/宇惠一郎 ueichi@nifty.com 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

万物流転する世を生き抜く(4) 現地調達による軍運用前のページ

万物流転する世を生き抜く(6) 敗戦に学ばぬローマ軍次のページ

関連記事

  1. 中国史に学ぶ(13) わかりやすい忠言には裏がある

  2. 交渉力を備えよ(37) 妥協のシナリオを描く

  3. 万物流転する世を生き抜く(31) 義経、勝利が悲劇の始まり

最新の経営コラム

  1. 第87回 サスティナブル(持続可能性)

  2. 第65回 子供に自社株を譲るときの注意点

  3. 人望を築く「脳の大原則」
    西田文郎氏(株式会社サンリ 会長)

アクセスランキング

  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5
  6. 6
  7. 7
  8. 8
  9. 9
  10. 10

新着情報メール

日本経営合理化協会では経営コラムや教材の最新情報をいち早くお届けするメールマガジンを発信しております。ご希望の方は下記よりご登録下さい。

emailメールマガジン登録する

新着情報

  1. 社員教育・営業

    第3話 成長課題 管理職の部下育成術(3)
  2. マネジメント

    第133回 社長になって良かったこと
  3. 税務・会計

    第11回 P/L(損益計算書)とB/S(貸借対照表)は、こう繋がっている。...
  4. 製造業

    第254号 ちょこっと改善発表会をやろう
  5. マネジメント

    第6回 より豊かに、より便利に、より楽しくで幸福感を訴求した西松屋
keyboard_arrow_up