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故事成語に学ぶ(28)千里の馬は常にあれども、伯楽は常にはあらず

指導者たる者かくあるべし

 才能は見抜く人がいてこそ生きる
 伯楽(はくらく)は、紀元前7世紀、秦の穆公(ぼくこう)に仕えた人物。馬のくせ、名馬か駄馬かを見ぬく鋭い目を持っていたとされる。彼が馬市で足を止め振り向いただけで、その馬は値が十倍に跳ね上がったという伝説も伝わっている。
 後世、唐代の文人の韓愈(かんゆ)は、出世の道が開けないのを嘆き、「このご時世、私の才能を見抜いてくれる伯楽はいないのか」と嘆きの文を残している。いかなる才能も、伯楽なしには、生かされることはない。
 
 人の評価は全体を見 て下せ
 『韓非子 』にこんな逸話がある。馬にたとえて、人の見分け方について語っている。
 伯楽がふたりの男に、蹴りぐせのある悪馬の見分け方を教えていた。ふたりは馬小屋へ行って馬を観察した。一人の男がある馬の前にまわり、「よしわかった。こいつは蹴りぐせが悪い」と馬を指差した。もう一人が馬の後ろについて回って尻を二度三度となぜたが、馬は蹴り上げなかった。
 指摘した男は、鑑定を間違えたか、と悔やんだが、後ろの男は言った。
 「いや君が間違えたんじゃない。この馬をよく見ると前足の付け根が傷んでいて、膝が腫れている」。そもそも蹴る馬というのは後ろ足を蹴り上げて前足で体重を支えるのだが、膝が腫れていては、支えることができない。「だから、後ろ足を蹴り上げなかったのだ。君は蹴る馬を見抜くのに巧みだが、腫れた膝を見抜けなかったのだよ」。
 まさに、それが伯楽の教えたかったことなのだ。全体をよく見ろと。韓非は、この逸話をこう締めくくる。
 「人の能力、才能というものは、状況が整ってこそ発揮されるものだ。〈猿も檻に入れられたのでは豚と同じだ〉というではないか」
 人材を見出すためには、見てくれだけではなく、人物全体を見渡して、さらには取り巻く状況をも加味せよという教訓だ。
 
 
 名伯楽の真の智慧
 この逸話のすぐ後に、こんな話も書かれている。
 〈伯楽は、可愛くない弟子には、千里を走る駿馬(しゅんめ)の見分け方を教え、お気に入りの弟子には、普通ののろい馬の見分け方を教えた〉
 え?逆ではないのか。その心は?
 〈千里を走る駿馬は、ほんの時折見つかるだけで珍しく、儲けの機会は稀だが、普通ののろい馬は毎日売れて、その儲けは頻繁だからだ〉とある。
 とんでもない逆説ではあるが、筆者なりに解釈すれば、次のようなことになろうか。
 「逸材を見つけることは重要だ。しかし、その他大勢を、駄馬として切り捨てたのでは組織は持たない。蹴りぐせの悪い馬にも、乏しいながらも特質を見つけ出し、使える方法を考えよ」。伯楽、恐るべし。
 普通の馬たち。数はこちらが圧倒的に多いのだから。周りを見渡してご覧になればわかるだろう。いかがだろうか。
 
 (書き手)宇惠一郎 ueichi@nifty.com
 
※参考文献
『韓非子 2』金谷治訳注 岩波文庫
『戦国策』近藤光男著 講談社学術文庫

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