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第177話 中国「団塊の世代」の退場とデフレの到来

中国経済の最新動向

中国経済は今、深刻な不動産不況に陥り、デフレに突入している。その背景には様々な要素があるが、中国の「団塊の世代」と呼ばれる第一次ベビーブーム(1962~75年)世代の退場による需要減退が最大の要因だと思う。

 

中国の「団塊の世代」とは                                                                                                                                   

 共産党政権の中国では2回のベビーブームがあった。1回目は1962~75年に年間2560万人の新生児が生まれ、出生率が6%を超えた。14年間で合計3.5億人にのぼり、人口ビラミットでは大きな塊が出来ている(図1を参照)。日本の作家堺屋太一氏の表現を借りれば、中国の「団塊の世代」という。

出所)「中国人口統計年鑑」により筆者が作成。

 

第一次ベビーブーム世代の人々は20年後に結婚年齢に入り、2回目のベビーブーム(1981~97年)をもたらした。本来ならば、年間3000万人以上の新生児が誕生する筈だったが、1980年から始まった「一人子政策」の実施によって、結局、年間2200万人にとどまった。

 

2016年に中国政府は正式に「1人子政策」を撤廃した。実施開始から撤廃までの36年間、「1人子政策」という国策は、中国の人口構造に長期的に大きな影響を及ぼした。これは「人口断層」の出現及びそれに伴う少子化の加速である。

 

いわゆる「人口断層」とは、強制的な「1人子政策」の実施によって、出生率は断崖のように急転直下で低下したことを指す。例えば、2023年の出生率は僅か0.64%、第一次ベビーブームの時の10分の1に過ぎない。新生児数は22年965万人、23年905人、2年連続で1000万人を割った。中国の総人口も22年85万人減、23年208万人減と、ここも2年連続で減少している。

「人口断層」の出現は、結果的に「少子化」を加速させ、中国経済に深刻な影響を及ぼしている。

 

「団塊の世代」の退場と不動産バブルの崩壊 

中国の不動産バブルは既に崩壊した。これは「団塊の世代」の退場という需要サイドの事情、及び不動産分野への過剰投資という供給サイドの事情、という2つの要素が働いた結果と思われる。

 

まず需要サイドを説明する。中国の「団塊の世代」、即ち第一次ベビーブーム世代((1962~75年)の人々は20年後に成人となり、住宅を需要とする。毎年数千万人という膨大人口の需要は、マイホームブームと不動産投資の急増をもたらした。

 

しかし、「団塊の世代」が定年退職を迎えると、住宅需要が急速に減少し、ブームも終わり不動産バブルが崩壊した。

 

中国の法律では、定年退職の年齢が男性60歳、女性55歳となっている。2022年に第1次ベビーブーム世代が定年退職のピーク期に入り、同時に中国の不動産バブルの崩壊も始まった。次頁図2に示すように、中国住宅販売面積のピークは2021年であり、22年からは減少に転じた。前年に比べれば、22年の住宅販売面積は26.8%減、23年に8.2%減と、2年連続で大きく減少している。同時期の住宅販売金額がそれぞれ28.3%減と6%減、不動産投資が10%減と9.6%減、いずれも2年連続で大幅に減少している。「団塊の世代」の退場と不動産バブルの崩壊は同時に発生した。これは偶然ではなく、むしろ因果関係での必然結果と言える。

出所)中国国家統計局の発表により筆者が作成。

 

筆者は、中国の不動産不況が暫く続くと思う。「団塊の世代」の大量退職が始まったばかりで、過剰投資による住宅の大量「在庫」も消化に時間がかかる。

 

中国人民銀行の調査によれば、現在、都市部住民の家庭は全世帯の96.8%がマイホームを持ち、平均して1世帯に1.5ヵ所の住宅を所有している。住宅供給が飽和状態だが、新たな需要が少ない。そのため、2023年末で住宅の空室は約50億平方メートルに上り、1億5000万人分の住宅が「在庫」となっている。これほどの在庫を消化するには相当な時間がかかるだろう。

 

「3Mブーム」の終焉とデフレの到来

鄧小平氏の改革開放政策は1978年からスタートし、中国に高度成長をもたらした。中国の「団塊の世代」は正に改革開放と高度成長の担い手だった。

 

1962~75年に生まれた3.5億人の人口は1980年以降に逐次に成人となり、彼らは生産の主力軍団で「世界の工場」を作り上げた担い手である。同時に彼らは消費の主役でもあり、1990年代後半から2010年代後半までに「3Mブーム」巻き起こした。

「3M」とは、My car(自家用車)、My home(持ち家)、Mobile(携帯電話)という3つの耐久消費財を指し、新「三種神器」とも呼ばれる。中国GDPに占める割合は、不動産産業約28%、自動車8%、携帯電話5%、「3M」合計で4割に達する。言うまでもなく、「3Mブーム」は中国消費市場の牽引車であり、高度成長の源泉でもある。

 

ところが「団塊の世代」の人たちが定年退職すると、「3Mブーム」も終焉を迎える。国内新車販売は2017年、携帯電話が2016年、住宅販売が2021年にそれぞれピークを迎えた後、いずれも減少に転じた。

 

住宅、車、スマホなどの消費は国民の家計支出に占めるシェアが極めて大きい。「団塊の世代」の退場に伴う「3Mブーム」の終焉は、中国消費市場に与えるインパクトが絶大で、結果的にはデフレの到来を招いた。

出所)中国国家統計局の発表により筆者が作成。

 

国家統計局の発表によれば、2023年消費者物価指数(CPI)が前年比で0.2%となっているが、うち、10月▼0.2%%、11月▼0.5%、12月▼0.3%、3ヵ月連続でマイナスに転落した(図3を参照)。今年1月はさらに下落幅が拡大し、前年同月比で▼0.8%となり、2009年9月以来のマイナス幅を記録した。一方、生産者物価指数(PPI)が13カ月連続でマイナスに陥っている。消費サイドから見ても生産サイドから見ても、中国経済は深刻なデフレ状態に陥っていることは明らかだ。

 

「団塊の世代」の退場。それに伴う「3Mブーム」の終焉及びデフレの到来。中国経済の楽観視できない状況は、当面続くだろう、と筆者思う。

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