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中国史に学ぶ(3) 天下取りに必要なのは我慢と策謀

指導者たる者かくあるべし

 三国志ファンの一番人気は昔も今も諸葛亮(孔明)だ。智謀と忠義のエピソードの数々がその理由だろう。しかし、孔明に学ぶべき点があるなら、なぜ未曾有の名将とうたわれながら天下を取れなかったにある。

 翻って司馬仲達(しば ちゅうたつ)を考えてみる。

 五丈原(ごじょうげん)での持久戦で孔明を陣中死に追い込んだ仲達は、逃げる蜀軍を深追いせず魏国内の敵、ライバルたちとの抗争に入る。

 遼東の地で燕王(えんおう)を僭称する公孫淵(こうそんえい)の反乱鎮圧に向かった仲達は、ここでも、襄平(じょうへい)城に逃げ込んだ公孫淵を、兵糧攻めで討ち滅ぼす。華々しい戦いがないことが、仲達不人気の理由であるが、戦わぬが故に彼は負けぬまま、着々と天下取りの手を打ってゆく。

 燕王を討ったあと、まもなく魏の二代目・明帝が没して、仲達は幼帝を補佐することになる。政治ライバルの曹爽(そうそう)と二頭体制で支えたが、曹爽は、王族の出で格が違った。

 さらに曹爽は、露骨に身内で政権を固め、仲達を圧迫する。「時に利なし」と見た仲達はどうしたか。政治闘争から逃げたのである。病気を理由に隠居した。

 疑り深い曹爽は、仲達のもとに見舞いの使者を立てる。応対した仲達は、会食の場で口からぼろぼろと飯をこぼす。話題を振られても、あさっての答えを繰り返し、「もはや私はあと長くない」と涙を流し弱音を吐いた。

 使者は、「仲達は死んだも同然。警戒する必要もない」と曹爽に報告した。

 仲達は積極的に市中に「仲達は老いぼれている」との情報を流しさえした。しかしこれは稀代の名演技であった。隠居とは名ばかりで、隠居場から人知れず次々と指示を出す。

 身内を宮廷から引き揚げさせ軍職に回す。司馬の一族は政治から離れたと見せかけて密かに軍権の掌握に出たのだ。スパイを曹爽の周辺に放ちその動静をつぶさに報告させた。皇太后も味方に引き入れる策略を講じる。

 そして雌伏十年。「時は今」と見た仲達は、墓参のため曹爽が都を離れたすきに、皇太后とともに軍事クーデターで権力を握り、曹爽ら政敵を一網打尽に捕らえて斬り捨てた。

 二年後に仲達は73歳でこの世を去るが、司馬氏の権力は揺るぎないものとなっていた。

 「時が来るまで魏の王室を支えるように」と遺言した。それから14年経った265年、孫の司馬炎(しばえん)が、もはや有名無実となった魏王朝から禅譲を受けて晋王朝を開く。

 後漢が滅びて半世紀、曹操も劉備も孫権という三国時代の英傑もできなかった中国統一は、“戦わぬ名将”の執念で成し遂げられた。

 「死せる仲達、天下統一をなす」である。

 (書き手)宇惠一郎 ueichi@nifty.com

 

参考文献
『三国志1-5(原文)』陳寿著 裴松之注 中華書局
『「三国志」の覇者 司馬仲達』松本一男著 PHP文庫
『三国志 きらめく群像』高島俊男著 ちくま文庫 
『十八史略』竹内弘行著 講談社学術文庫

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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