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中国史に学ぶ(4) 「背水の陣」を生かした韓信の智恵

指導者たる者かくあるべし

 始皇帝の秦が滅んだ後、項羽と劉邦が天下の覇をめぐりしのぎを削っていた時代のこと。劉邦に韓信(かんしん)という知将がいた。

 この男、不遇だった若いころ、屠殺人仲間から因縁をつけられたことがある。

 「お前図体はでかいが内心は臆病者だ。信よ、やれるものなら腰の刀で俺を刺してみろ。できないなら俺の股の下を潜れ」

 ぐっとこらえた韓信は腹ばいになって平然と股を潜り抜けた。町中の笑いものとなったが、将来の野望の前に無駄な争いは避ける。司馬仲達に通じる真の勇気であろう。股くぐりの後日談は後にして話の先を急ぐ。

 紀元前207年、劉邦は函谷関(かんこくかん)を出て韓信に東方、南方の諸国を討たせた。勢いに乗る韓信は兵数万を率いて趙国に向かった。

 趙王の居城までには隘路(あいろ)が立ちはだかっている。趙王の将軍・李左車(りさしゃ)は、「3000の兵を私に預けて下されば、隘路に苦しむ敵の後続の輸送隊を襲いましょう。敵は食糧補給できず容易に勝てます」と進言したが、趙王はこの建策を退けた。

 間諜からこの情報を得た韓信は、「しめた」とばかりに急ぎ難所を抜け、河を背にして陣を敷く。だが城に籠る敵は30万。籠城されては攻め切れない。ここで韓信は一計を案じる。

 「大将のわしが少数の兵で先陣を切れば、敵は城を空けて出てくる。そして一戦のあと、敗走を装って本陣におびき寄せる、どうだ」

 ここまでなら、籠城する敵に対する通常の誘引策にすぎないが、韓信は味方にも告げず、もう一手を打っていた。

 軽装で機動力のある奇兵(特殊部隊)2000騎を夜陰に乗じて先発させ、敵に気づかれぬよう城近くで待機させていた。一人一本ずつ劉邦軍を示す赤い幟(のぼり)を持たせておいた。

 趙兵たちは、河を背にした布陣を見て「韓信はばかか」とあざけった。

 さて韓信は打ち合わせ通り、夜明け方に進発し、勢い込んで城門を飛び出した敵と矛(ほこ)を交え、太鼓も旗も捨てて本陣に駆け込む。

 城を空にして追ってきた趙軍との間で激戦となったが、河を背に逃げ場のない韓信の軍は死に物狂いで奮戦し、数で圧倒的な超軍は攻めあぐんだ。

 世にいう、布陣の常道を無視した「背水の陣」の効用である。しかし、韓信の用兵の真価はここからであった。

 いったん、城へ引き揚げようとした趙兵たちが振り返り目にしたものは…。出撃のすきに城内になだれ込んだ奇兵の手によって城壁にへんぽんと翻(ひるがえ)る敵の真っ赤な幟2000本だった。

 パニックを起こした大軍は逃げ場もなく散り散りとなり、韓信軍に殺戮され捕えられた。

 「今度の商戦がわが社の正念場だ。背水の陣で臨もう」などと安易に言うなかれ。韓信の深い智慧をこそ知るべきだなのだ。

 リーダーの綿密な作戦を欠く勝算なき背水の陣は、社員を疲弊させただけで終わるのが落ちなのだ。(次回に続く)

 (書き手)宇惠一郎 ueichi@nifty.com

 

参考文献
『世界文学大系5b 史記列伝編』司馬遷著 小竹文夫、小竹武夫訳 筑摩書房
『十八史略』竹内弘行著 講談社学術文庫

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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