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挑戦の決断(45) 革命プラン(孫文 中)

指導者たる者かくあるべし

中華民国の創建

 長江中流域の武昌で1911年10月に起きた反清朝革命勢力の武装蜂起はまたたく間に広がり、13省が清朝からの独立を宣言した。しかし清朝には強力な陸軍(北洋軍)が健在だ。独立した13省を束ねるリーダーも不在だ。革命運動の象徴である孫文の帰国が待たれた。
 当時、米国にいた孫文は状況を見極めつつ外遊を続ける。欧州へ回り、諸外国の革命支援と新政府への借款調達に駆けまわったが、新中国の形が見えないとあっては、順調には進まなかった。
 清朝は11月、北洋軍の総帥だった袁世凱(えん・せいがい)を内閣総理大臣に任命して事態の対処に当たらせる。袁世凱には野心があった。強大な軍事力を背景に、清朝と革命勢力の双方に圧力をかけ、混乱に乗じてあわよくば中国の全権を握ろうと動く。
 そんな中、12月21日に孫文が香港を経由して帰国し大歓迎を受ける。年が明けて1月1日、孫文は南京で中華民国の建国を宣言し、自ら臨時大総統に就任した。しかし、軍事力も資金もない孫文は、袁世凱との妥協を余儀なくされる。
 清朝の総理として幼い宣統帝に退位を迫ることと引き換えに袁世凱に臨時大総統の地位を譲ることにした。袁世凱は宣統帝に引導を渡し、2月12日に退位が発表された。ここに満州族が建国し約270年続いた清朝は滅び、中国はアジアで最初の共和国となった。辛亥(しんがい)革命である。そして、約束通り、孫文は袁世凱に臨時大総統の地位を明け渡した。

袁世凱との対立

 革命派としては、一歩後退しながらも武力衝突を回避して革命を成就する実を挙げた。利用した袁世凱の野心を抑え込む仕掛けは講じていた。中華民国の臨時憲法である。そこでは議院内閣制をうたい、議会の主導権を握って大総統の独走を防ぐというもの。袁世凱が軍を動かせば、武装蜂起で袁一派と雌雄を決するというのが孫文の第二段階の革命プランだった。
 このプランに沿って同年8月には、中国同盟会を改組して国民党を結党、1913年1月の第一回国会議員選挙で、国民党が第一党となる。袁包囲網は出来上がったかに見えたが、袁は反撃に出る。国会の決議なしに英仏独露日5か国の銀行団から2500万ポンドの借款を受け、この資金の一部で、国民党議員を買収し、国会を骨抜きにしてしまう。
 これを見て孫文は第二革命を発動する。江西省を皮切りに南部7省で袁世凱政権からの独立を宣言した。袁は強力な軍事力を背景に弾圧に乗り出し、武装蜂起はわずか2か月で敗北してしまう。
 したたかさでは、リアリストの袁世凱の方が一歩上回っていたことになる。

再起を期して日本へ亡命

 孫文ら国民党幹部は台湾を経由して日本に亡命した。
 “邪魔者”を追放した袁世凱は権力の集中を目指し、次々と手を打つ。抵抗の術を失った議会に正式の大総統に選出させ、国民党を解散に追い込み、議会も解散させる。そして臨時憲法を停止させ、大総統の権限を大幅に拡大した新憲法を公布した。彼の野望の完成に残されたのは、皇帝に上り詰めるだけとなる。革命とは名ばかりで中国は伝統的な王朝体制の復活に向け動いてゆく。
 1913年8月、孫文が上陸した日本は、手のひらを返したように中国革命支援の熱も冷めていた。成り行きを見守っていた日本政府も事態が落ち着くにつれ、勝者である袁世凱を交渉相手として対応を始める。
 東京で再起を期す孫文は、中華革命党を結成する。「革命の初期段階では権力の集中が必要」と考える彼は、党員に「孫文への絶対忠誠」を求め、武力革命路線志向をさらに強めていく。「独裁的な党運営は袁世凱とどこが違うのか」。同志たちは次第に離れていった。
〈打倒袁世凱・新中国建設〉を実現するために、新たな革命プランが必要だった。 (この項、次回に続く)

 (書き手)宇惠一郎 ueichi@nifty.com

 

※参考文献
『孫文革命文集』深町英夫編訳 岩波文庫
『中国の歴史10 ラストエンペラーと近代中国』菊池秀明著 講談社学術文庫

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