分割方式が国鉄改革の成否を決める
巨額の赤字を生んでしまった国民の足・国鉄を救う道は、「分割民営化」の改革しかないと決断した政府だが、改革の成否を決めるのは分割の方式にあった。国鉄破綻の最大の要因が、経営の全国一元化の弊害にあるというのが、国鉄再建監理委員会の共通認識だった。一元化経営が、巨大な経営体の自主性、独自判断を失わせ、ひいては「親方日の丸」「国鉄一家」的な非生産的体質を助長してきたと見なされた。
完全な分社化のスキーム
国鉄内の改革派リーダーたちが描いた青写真に沿って、国鉄再建監理委員会はまず、旅客部門を、本州3社(東日本、東海、西日本)と三島(北海道、九州、四国)の3社に分割することを決めた。地域に根ざした分割を小回りのきく経営のために必須とみなした。しかも各社間での株の持ち合いを認めず、上部に持ち株会社をおかず、完全に別会社とする。国鉄時代に増長したもたれ合いの体質の一掃である。
さらに、6社間の収益性の格差を乗り越えて各社が黒字経営を目指せるように施された工夫は意外に知られていない。以下に要点を書いておくと。
(新幹線の扱い)
▽収益性の高い新幹線(当時4路線)は、東海道新幹線を本州中部を受け持つ東海旅客会社に、山陽新幹線を西日本旅客会社に、東北、上越新幹線を東日本旅客会社に帰属させる。
▽新幹線と付帯設備は特殊法人の「新幹線保有機構」が保有し運用する各社に貸し付ける。使用料は、一律ではなく各路線の収益性と実績に見合った額とする。
(長期債務処理)
▽新会社発足時に引き継ぐ債務のうち、7割に当たる25兆5200億円は、国鉄清算事業団が引き継ぎ、国鉄の遊休土地などの資産売却で返済する。
▽新会社が引き継ぐ4兆7279億円は、本州3社が引き継ぎ、収益性が乏しい島部3社は、返済分担義務を負わない。
(経営安定基金)
▽鉄道利用率が低く、経営が厳しい三島会社には、債務返済義務を免除した上に、総額1兆2700億円の経営安定基金を積んで、その運用益を赤字補填に充てる。
分割民営化の効果と現状
巨額債務を国鉄から引き継いだJ R各社は、ゼロからの出発ではなかったが、民営化に際しての大幅な10万人近い人員削減効果もあり、本州3社は順調に再建の道を歩み、J R東日本が1993年に株式を上場して完全民営化を果たしたのに続いて、J R西日本(1996年)、J R東海(1997年)も民営化を達成する。
しかし、綿密に計算された再建スキームにも誤算が生じる。民営化後に見舞われたバブル経済崩壊の影響で、清算事業団が抱える遊休土地の価格が暴落して処理が進まず、また、三島会社救済のための基金の運用益も金利の低迷で予想を大きく下回る。そうした中で、赤字脱却困難と見られた三島3社の中で、J R九州は、利用者のニーズに合わせたダイヤ編成、車両編成の見直し、新型車両の投入などのほか、民営化で認められた鉄道外収入の道を模索し、2016年に株式を上場し完全民営化達成に漕ぎ着けている。北海道、四国の両社は厳しい経営が続いている。
それも含めて、分割民営化の荒療治で日本経済を支える鉄道マンたちに、「努力と工夫で利益が生まれる」という当たり前の企業精神が根付いたことは事実である。
(書き手)宇惠一郎 ueichi@nifty.com
※参考資料
『国鉄―「日本最大の企業」の栄光と崩壊』石井幸孝著 中公新書
『国鉄改革の真実―「宮廷革命」と「啓蒙運動」』葛西敬之著 中央公論新社