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戦略・戦術

第八十二話 「家具を売らない家具屋」— 西岡家具店の挑戦

中小企業の「1位づくり」戦略

こんにちは、1位づくり戦略コンサルタント 佐藤元相です。
「家具業界は斜陽産業」そんな言葉を耳にすることが増えました。

かつて家具は、「一生モノ」として大切に扱われるものでした。婚礼家具をそろえ、新築時に家に合った家具を選ぶ。家具屋には、そうした「人生の節目」に寄り添う役割があったのです。

しかし、時代は変わりました。

• 安価な家具の台頭(ニトリ・IKEA・ネット通販)
• 住宅着工数の減少 → 家具の買い替え需要の縮小
• 消費者の価値観の変化 → 量よりも心地よさを求める時代へ


こうした変化の中、業績を伸ばす企業と苦しむ企業の「二極化」が進んでいます。大手家具店の上位数社で業界の7割近い売上げを確保しています。10億円以下の中小家具店は全体の95%を占めるのですが、残り3割の売上げを奪い合っています。多くが業績を伸ばせないでいるのが現状です。

そんな中、地方の中小の家具店はどう生き残ればいいのか?
今回は、香川県観音寺市の「西岡家具店」を例に、「大手と競わずに地方で1位になる戦略」 を考えていきます。

 

香川県観音寺市の郊外にある西岡家具店

西岡家具店のコンセプトは「えがおが集う場所を創造する」です。この店に足を踏み入れると、店内は、インテリアの他、雑貨やアパレル、香り豊かなキャンドルやお菓子も揃えられています。商品点数は雑貨約20,000アイテム、家具約3,000アイテム。他の家具店とは違う雰囲気を感じます。

 

 

西岡政憲社長は「私たちの強みは空間を素敵にできることです。花瓶やソファー、クッションや照明、テーブルや観葉植物などを組み合わせてコーディネートすることが得意なのです」と話してくれました。
「家具を売る」のではなく、「暮らしを提案する」。これが私たちの選んだ道なのです。
西岡家具店は、そんな家具屋です。

 

 

婚礼家具から、空間提案の時代へ

西岡家具店の歴史は、今から68年前 に遡ります。創業者である西岡政憲社長の祖父は、もともと家具職人でした。当時は「結婚するならタンスを揃えて嫁ぐ」のが当たり前で、西岡家具店も婚礼家具 をメインに扱い、商店街の一角で繁盛していました。
しかし、時代の流れとともに婚礼家具の需要は次第に減少していきました。

「このままではダメだ。」
そう危機感を抱いたのが、現社長の西岡政憲さん でした。
婚礼家具は目的買いの商品 です。お客様が必要なときにしか来店しないため、週に来客がゼロの日も珍しくありませんでした。

「家具だけを売るのではなく、雑貨やインテリアも扱い、暮らし全体を提案する店にしよう。」そう決意した西岡社長は、父に相談します。
「婚礼家具をなくしたい。店を変えたい。」

父の代から続く伝統を変えることは簡単なことではありませんでした。ですが、このままではいずれ経営が立ち行かなくなる。ここで変わらなければ終わってしまう。

そこで、西岡社長は一つの大胆な決断をしました。

「婚礼家具の価格を大幅に下げ、一気に売り切る。」
「息子が帰ってきました」というメッセージを込めたチラシを作成し、婚礼家具の販売価格のゼロを一つ外して販売することにしました。

50万円の婚礼家具を5万円で販売しました。その結果、婚礼家具は一気に8割が売れ、同時にまとまった資金が手に入りました。

社長はその資金の半分を外装や内装の改装に使い、残りの半分を新しい商品の仕入れに充てました。こうして、西岡家具店は社長の決断により、「家具を売る店」から「暮らしを豊かに提案する店」へと生まれ変わったのです。

この変革からわかるのは、会社の未来は、社長の決断ひとつで大きく変わるということです。

 

 

未完成であり続ける店

「うちの店は、サクラダファミリアみたいなものです。」西岡社長は、そう話してくれました。

サグラダ・ファミリア は、140年以上にわたって建設が続く未完成の建築物ですが、その未完成であること自体が魅力 となり、世界中から人々を惹きつけています。

実は、西岡家具店も同じように、「未完成であり続ける店」だと言います。

● 季節ごとに、売り場のレイアウトを変える
● 新しいディスプレイや商品を追加する
● いつ来ても新しい発見がある空間をつくる

西岡家具店では、お客様が扉を開けた瞬間、感性のスイッチが切り替わるような体験 を大切にしています。

「ここに来ると、なんだかワクワクする。」
そんな空間づくりを追求し、何度でも足を運びたくなる仕組みを作り続けています。

 

 

「接客メモ」が生む信頼とリピート

西岡家具店の接客の特徴は、「接客メモ」 を活用することです。この取り組みは、ライバル企業との差別化につながる大きな強みとなっています。

スタッフは、お客様と話しながら以下のような情報を手書きの絵や図を交えて記録 していきます。

● 家の床や壁の色
● 家族構成
● 好みのテイスト
● 部屋の間取り

「言葉だけでは伝わりにくい細かなイメージを、できるだけ正確に共有したい」
そんな想いから、接客メモを活用した提案を行っています。このメモをもとに家具やインテリアを提案することで、お客様の理想と現実のズレを最小限に抑え、満足度を高める ことができます。

また、スタッフがじっくりと話を聞くことで接客時間が自然と長くなり、その分、お客様との信頼関係も深まります。

「私のことをちゃんと覚えてくれている」そう感じたお客様は、次回の買い物でも西岡家具店を選んでくれる のです。この積み重ねが、長く愛されるお店づくり につながっています。

 

 

家具ではなく「眠り」を売る—西岡家具店の新しい提案

家具はただの道具ではありません。
特にベッドは、人生の 3分の1 を過ごす大切な場所です。
だからこそ、西岡家具店は 「ベッドを売るのではなく、快適な眠りを提供する」 という考え方を大切にしています。
その考えのもと、西岡家具店では 「体験型の販売」 を導入しました。

 

2時間の睡眠体験で、本当に自分に合ったベッドを選ぶ

その代表的な取り組みが、別館『グッド・スリープ・ストア』のベッド体験コーナー です。ここでは、実際の寝室をイメージした約10畳のオシャレな空間にセミダブルサイズのベッドが2台 置かれています。
通常の家具店では、ベッドは店頭に並び、お客様はその場で数分横になってみるだけというケースがほとんどです。

しかし、それでは本当の寝心地や体へのフィット感を知ることはできません。そこで西岡家具店では、完全予約制で、お客様にパジャマを持参してもらい、2時間じっくりと寝心地を試してもらう ことができる体験型の販売を導入しました。

実際に体験することで、「思っていたのと違う」 というミスマッチがなくなり、お客様は納得して購入することができます。

また、家族での参加も可能です。一般的な家具店の売り場では、周囲の雑音で落ち着いて試すことが難しいですが、完全予約制のため、静かな環境でじっくりと体験できます。

 

接客の質を高める予約制のメリット

予約制を導入したことで、お客様だけでなく、スタッフにとっても大きなメリット がありました。
通常のように陳列されたベッドを販売する場合、店頭での接客は短時間で終わってしまい、お客様の要望を深く聞くことが難しい という課題がありました。

しかし、予約制にしたことで、お客様のライフスタイルや好みをじっくりとヒアリングできる時間が確保され、より細やかな提案が可能に なったのです。

この変化により、「お客様一人ひとりに寄り添った提案ができる」
「お客様もスタッフも満足度が高い接客ができる」と、サービスの質が大きく向上しました。

西岡家具店の目指すのは、ただの家具店ではありません。
「良質な眠りを通じて、お客様の暮らしを豊かにすること」 です。

そのために、単にベッドを並べて売るのではなく、「眠りを体験してもらうこと」 を大切にしています。「どんなベッドを買うか」ではなく、「どんな眠りを手に入れるか」 を考えてもらうこと。それが、西岡家具店の新しい提案なのです。

 

 

「チャンスヒアリング」としてのクレーム対応

当社では、クレーム対応を「チャンスヒアリング」と呼んでいます。たとえば、配送時のトラブルやサイズ違いの問題が発生したとき、普通ならクレームとして処理されます。しかし、西岡社長は必ず自ら対応し、改善策を考えます。

「お客様の声は、より良い店づくりのヒントです。」
そのため、すべてのクレームは毎朝のミーティング時に、スタッフ全員で共有し、サービス向上につなげています。

 

 

地域を活性化するイベント「西岡市」

西岡社長は、「お店だけでなく、地域全体を元気にしたい」という想いから、「西岡市(にしおかいち)」 というイベントを開催しています。

• 家具メーカーや雑貨ブランドとのコラボ
• 子どもが楽しめる絵の具アート体験
• 地元職人と一緒にものづくりワークショップ
• 乗馬体験イベント

リアル店舗の価値とは、「人と人がつながる場を提供すること」。このイベントを通じて、地元の人々が集まり、笑顔が生まれています。

 

 

お客に寄り添うアフターフォロー

西岡家具店では、購入後もお客様とのつながりを大切にしています。
社長が自ら、お客様の近況を伺います。
「その後、使い心地はいかがですか?」
「またいつでも相談してくださいね。」
この手間を惜しまないフォローが、長く愛される秘訣になっています。

 

 

 

地方でも、東京に負けない店をつくる

「東京へ行かなくても、観音寺にこんな素敵な店があると気づいてほしい。」競争するのではなく、地方に合ったやり方で、自社の価値を引き上げる。それが、西岡家具店の戦略です。

大手と同じ土俵で戦うのではなく、地域で1位の店になる。
そのために何をすべきか?
西岡家具店の取り組みは、多くの中小企業にとって大きなヒントになるはずです。

あなたの会社は、どこで1位を目指しますか?

 


西岡家具
https://n-oka.net/
〒 768-0021 香川県観音寺市吉岡町770-1
tel. 0875-25-4256

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