■火山活動が生み出した「巨大な屏風」
「層雲峡は未だ世に知られざるが、天下の絶勝也」
北海道の景勝地をたびたび著書等で絶賛したのは、明治・大正時代の詩人・随筆家、大町桂月である。旅と酒をこよなく愛し、東北や北海道の名勝を訪ね歩いた。紀行作家の名手としても名を馳せた。
層雲峡温泉(上川町)は、2000m級の山々が連なり、「北海道の屋根」と称される大雪山国立公園の北部に位置するいで湯。石狩川沿いに十数軒の宿が並ぶ。
温泉街から見えるのは、挟み込むようにそびえ立つ柱状節理の絶景。柱状の岩石が連なる光景は、巨大な屏風のようだ。

この独特の地形は火山活動の痕跡だ。かつて大雪山の大噴火によって層雲峡一帯は火砕流に覆われた。その厚さは200m。内部が冷え固まるときに柱のような縦の割れ目ができ、それが石狩川の流れに削られ、荒々しい層雲峡の風景が生まれたという。
■名付け親は紀行作家の大町桂月
層雲峡の温泉街を歩く。ホテルなど建物の向こうに、整然とした柱状節理が屹立している。どこかヨーロッパの山岳リゾートを思わせる風景である。
層雲峡の名付け親は大町桂月である。1921年8月に初めて層雲峡を訪れた桂月は、アイヌ語の「ソウンペッ(滝のある川)」にちなむ双雲別川をヒントに「層雲峡」と命名したとされる。
当時はまだ知名度のなかったこの地で温泉宿を営んでいた実業家が、全国的に名の知られていた桂月を招いて命名させたとか。桂月は作家であると同時に、今でいう広告代理店やインスタグラマーの役割を担っていたのだろう。
柱状節理はさまざまな絶景をつくりだしている。温泉街から3㎞の距離にある「銀河・流星の滝」まで足を延ばす。隣り合う2本の美しい滝が柱状節理の断崖を流れ落ちる。日本の滝百選にも入っている名瀑。特に白糸のように落ちる銀河の滝は、芸術作品を思わせる繊細さである。
温泉街から黒岳(1984m)の5合目まで延びるロープウェイからの景色も一見の価値あり。眼下には柱状節理の峡谷美、見上げれば迫力満点の大雪山の山々。晴れていれば黒岳の頂上まで見える。
春は新緑、夏は雲海、秋は紅葉、冬は雪景色が見事で、どの季節に訪ねても見どころがある。筆者が訪ねた8月は深い緑と抜けるような青空が印象的だった。
■本格派の源泉がかけ流し「黒岳の湯」
黒岳から下山した後、温泉街にある日帰り入浴施設「黒岳の湯」に立ち寄った。2階が内湯、3階が露天風呂とサウナというつくりの素朴な公衆浴場だ。
無色透明の湯は単純温泉という泉質だが、そう「単純」ではない。香ばしさを思わせる独特の匂いを放つ透明湯はかけ流しで、茶色の湯の花が舞う本格派だ。男湯の露天からは柱状節理の風景も望める。夏にもかかわらず、黒岳の5合目の気温は11℃と肌寒いくらいだったので、湯の温もりが身に沁みる。
登山客らしき2人組が「黒岳がキレイに見られてよかった」「日頃の行いがよいからかな」と語らいながら充実感あふれる笑みがこぼれた。登山後の温泉はさぞかし気持ちがよいことだろう。
旅館やホテルに宿泊して、ゆっくり時間を過ごすのもおすすめ。開放感のある広々とした露天風呂をもつ宿も多い。たとえば、温泉街で最も高台に位置する「ホテル大雪」は、3つの大浴場と2つの露天風呂を備え、ロケーションがすばらしい。柱状節理の絶景も拝める湯船もある。
温泉街は四季を通して、その大自然を楽しめる。ひと足早く冬が訪れる層雲峡は、例年11月にはスキー場がオープンし、1月下旬から3月中旬まで氷の造形物が並ぶ「氷瀑まつり」が開催される。氷や雪、光が彩る幻想的な世界は、雪国ならではの絶景だ。もちろん雪見風呂も趣深い。
寒さや豪雪でさえも層雲峡の魅力である。大町桂月が雪積もる冬に訪れたら、なんと評すだろうか。




















