技術の進歩とともに急成長市場は生まれ、その波に乗って多くの企業がしのぎを削り、トップシェア獲得、国内No.1、世界企業をめざしていく。
それはそれで戦略的に間違いはない。ただ生き残れる企業は、ごく限られた数にしかならない。
昨今のパソコン、インタ―ネット、携帯電話市場を見ればわかる通り、一時的に世界トップとなっても、技術革新への遅れや、新興ベンチャーの一気の台頭、競争ルール自体の変化などで、急激に業績を落としたり、M&Aの対象となったりする。
先般のモトローラのM&Aのニュースにも驚くばかりである。まさに現代版の下剋上。
成長市場の一番先頭であったり、技術開発の渦中にある会社は、一発当れば業界を席巻でき、驚異的な成長となるが、永い繁栄を狙っていく経営者の採るべき戦略ではない。
成長市場に関連しながら確実な事業拡大を狙える市場で、安定的なシェア、繰り返し繰り返しサービスを提供できる分野を獲ることが、一見地味だが一番賢い。
今月、SI社の社長に、そんなお話を伺う。インターネット分野ではあるが、「ホスティング」「コロケーション」という専門サービスを提供する会社である。
正直、マスコミに派手に取り上げられるわけでもなく、自社の顧客の「ネット企業」が急成長しても、大きく儲かるわけでもない。ただ確実に売上も利益も予想通り伸ばしていける。今秋も国内最大規模の設備投資を行い更なる経営基盤の強化を図る戦略である。
小さな部品の下請け企業でも同じことは起きる。
先週訪問した企業でも、特殊精密バネを製造しており、携帯電話に使われていた関係でここ数年間はフル操業がつづくほどであった。携帯電話メーカー各社は下剋上を繰り返すが、この会社の微細バネは各社に採用されているので出荷数に大きな変化はなかった。
ただし、スマートフォンの登場による受注減は影響大である。だから、いくつもの産業分野に深く入り込み急激な変化へのヘッジは怠りない。医療機器分野への取り組みなど積極的に行っている。わずか0.5ミリのバネをルーペで見せてもらったが、どうやって造るか想像もできない。だから日本中また世界からも引き合いが来る。世界中で最先端の開発は全産業で行われている。
随分以前の話しになるが、介護市場が注目を浴びた時に、介護施設や介護事業そのものに進出した会社と、介護施設で働く介護士を教育し市場に送り出す教育事業に参入した企業に分かれた。もちろん介護業界のトップグループは、大きな産業になるほど成長したがその陰には、志半ばで倒産廃業した企業、吸収合併された無数の企業がある。もちろん教育産業にも競争はあるが、そこまでの激甚な市場競争ではない。
古くは、ジーンズの生みの親であるリーバイスも、ゴールドラッシュに沸くアメリカ西海岸で金鉱夫が丈夫な労働着を求めていることに目をつけ、丈夫なテントの生地で作業ズボンを仕立て人気を博していった。一攫千金とはいかなかったが、その後160年の長きにわたり世界中でジーンズを販売していることを考えれば、金鉱はこっちにあったのかもしれない。
日本電産の永守社長が、なぜモーター会社を次々M&Aしていくのか、考えてみて欲しい。成長産業を支える市場は、思った以上に大きく魅力的なマーケットである。
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