中小企業の経営において、金融機関からの融資は極めて重要な資金調達手段です。その際、銀行等の金融機関が最も重視する資料のひとつが貸借対照表（バランスシート）です。貸借対照表は、企業の「姿」を写す鏡とされ、資産・負債・純資産のバランスから経営の健全性が試算されます。しかし、その資産に関してはそれが必ずしも実在するとは限らない点に、金融機関は強い警戒心を抱いています。これがいわゆる「資産の架空性」の問題になるわけです。
資産の架空性とは、本来存在しない資産を帳簿上計上すること、あるいは実質的な価値を失った資産を簿価のまま残し、実態以上に財務内容を良く見せてしまう行為を指します。典型例としては、売掛金や在庫の水増し、貸付金の実態欠如、固定資産の過大評価などが挙げられます。これらは粉飾決算に直結する場合もあり、金融機関にとっては最も警戒すべきポイントとなるため、企業によっては厳しくみられることになります。
例えば売掛金の項目では、すでに回収不能なのに、貸倒引当金の計上が不十分なまま残されるケースがあります。銀行員にしてみれば、売掛金の顧客別の補助元帳をみれば、常に回収されない資金が残っており、比較的かんたんにそれをみわけることができます。
このレベルの偽装であれば精査しなくてもかんたんにみつけられるものです。だから、現実的にはこのタイプの偽装を行う経営者は経理や財務を理解していない経営者ということになり、銀行員が経営者と話をしただけで、このレベルだからここを理解していないんだなとか、悪意はないんだなとかがわかるものです。
貸付金の扱いも注意が必要です。経営者個人に対する貸付金が資産として計上されていても、返済の見込みが立たない場合、それは実質的に回収不能資産と判定されます。返済の見込みが立たないとは、かんたんにいえば、個別の貸付残高が減っていないと言うことです。これも、融資審査の現場では、かんたんに見極めらます。
こうした「返済されない貸付金」があると、資金使途の不透明さやガバナンスの欠如とみなされ、企業評価を大きく下げることにもなります。
在庫についても同様なのですが、在庫の信憑性の検証はもっとも決算の数字をごまかしやすい材料として悪意のある経営者に利用される項目の一つでもあります。
不良在庫の廃棄は利益を減らす手段に利用できるため税務上のハードルが少し高く、かといって不良在庫を残したままでは、銀行に実体のない資産と切り捨てられることもある のが実情です。
それでも、銀行の評価を高めようと意識する企業経営者の場合、この在庫で利益を底上げするケースが多いのです。在庫で利益を多く見せた場合、消費税負担は変わらずに偽装ができてしまうという点もあるのだと思います。
そして在庫という資産が本当の数字なのか疑う銀行のほうは、回転率の変化や、 棚卸簿で滞留している個別在庫の確認などで不良資産を洗い出していきます。 それでも、在庫で数字をごまかすことがしやすいのは、昨今の材料費の大幅な高騰や、新しい業態に手をだす会社がでてきたことなどが、理由としてあげられます。
そして、そんな偽装をやっているかどうかを銀行が見分ける最後の方法が何だかわかるでしょうか？
それは経営者のまじめさであり、人柄を銀行がどう判断するかなのです。つまり、 銀行から信用を得ようとするならそれこそが一番大事なものになるのです。
