実際より帳簿上の現金が多く、役員貸付金処理で対応した場合、税務署が「それを認めない」ケースとは?
― 形式ではなく”実態”で切られる分岐点 ―
帳簿上の現金が多いにもかかわらず、実際の現金が存在しない。その差額を「役員貸付金」で整理しようとしたとき、もっとも悪いケースとは「税務署に否認される」ことだと思います。実務では、役員貸付金という勘定科目自体が否定されるのではないのですが、それが本当に”貸付”といえる実態を備えているかによって「役員貸付金」という扱いを否定されるようです。税務署は形式ではなく実態で判断し、ある分岐点を超えると「これは貸付ではない」と切り捨てるのです。しかも、これが、新たな課税につながり、どれほど危険なことかを経営者の多くが理解していないことが問題なのです。税務上のリスクについては過去に倒産した会社の事例や、金融機関にいたときの経験からひも解いていこうと思います。つまり経験則からの類推になるのですが、参考になると思います。
税務署の判断の第一の分岐点は、「返済実績の有無」だと思われます。役員貸付金として処理した以上、返済が始まっているかどうかは最重要ポイントになるわけです。たとえば、期末に多額の役員貸付金を計上したものの、翌期に一円も返済が行われていない場合、税務署はこの時点で強い疑念を持ちます。特に、役員報酬が支給されているにもかかわらず、そこから一切返済されていない場合、「返す意思がない」と判断される傾向にあります。実務上は、計上後6か月~1年以内に具体的な返済実績がない場合、否認リスクが急激に高まるという話を聞いたこともあります。
第二の分岐点は、「返済能力の有無」だと思われます。帳簿上で返済計画を作っていても、役員個人の収入状況や生活実態から見て、返済が現実的でない場合、税務署はそれを認めないというケースをみてきました。たとえば、役員報酬が月30万円程度で、生活費を差し引くと余剰資金が数万円でほとんどないにもかかわらず、3,000万円以上の役員貸付金がある場合などです。このようなケースでは、「返済計画は形式的なもの」と判断され、役員賞与や使途不明金として認定される可能性が高く、一番目の「返済実績の有無」とのかねあいで見られるのだと思います。
第三の分岐点は、「発生原因の説明可能性」です。役員貸付金が発生した理由について、説明がつかないといった場合、税務署によってかなりこまかく調べられたことがありました。
第四の分岐点は、「契約書・利息・返済条件の有無」です。もっとも、中小企業の経営者は、顧問税理士からの進言で形式基準だけは満たしていることも多いものです。ただ、ここが問題で、形式だけ満たせばいいということはなく、中小企業経営者の多くがここを誤解しているものです。
第五の分岐点は、「過去からの累積状況」です。役員貸付金が単年度で発生し、翌期には減少している場合と、毎期少しずつ増え続けている場合とでは、評価はまったく異なると思われます。後者の場合、税務署は「貸付ではなく、実質的な役員報酬の後払い」と見なされたケースをみたことがあります。
これらの分岐点を総合すると、税務署が「役員貸付金は認めない」と判断する瞬間は、ある一つの要素で決まるのではなく、「返していない」「返せない」「説明できない」「条件がない」「増え続けている」。これらが複数重なった時点で、役員貸付金という”仮面”は剥がされることになります。
経営者といえど、これが、どのように新しい課税に結び付くか理解している人は少なく、このリスクを形式だけ整えれば回避できると考える経営者が多いのも実状であり、この問題のリスクをちゃんと理解すべきだと考えます。















