「受注はしたものの、人手不足で生産が間に合わない!」
このような声が、いろいろなところから聞こえてきます。この人手不足に対応することは、現在の緊急課題です。
しかし都内でパート従業員募集の貼り紙を見ると、時給は軒並み1000円を超えており、人が集まったとしても今度はコストが大幅に上昇してしまうという次の問題が発生します。
人を新たに採用しないでも、現在の注文をこなせるようになる改善が必要ということですね。
そこで、今回から4回にわたって、現在の仕事のやり方を動作レベルで見直し、労働生産性を上げる「動作経済の4原則」についてお話しいたします。
動作改善というと、あまりに身近でそして誰でも知っていること過ぎて、逆に見過ごされている部分です。大きな成果が望める方法ですので、みんなで勉強して実行していきたいと思います。
まず最初に「動作経済の4原則」とは何でしょう?
それは、
・距離を短くする。
・両手を同時に使う。
・動作の数を減らす。
・楽にする。
の4つです。
まずは最初の「距離を短くする」をご説明いたします。
実に簡単なことで、使うモノを近くに置くということです。そんなことは当たり前じゃないかと皆さん思われるのですが、ではどのくらいのモノが作業者の近くに置いてあるでしょうか?
作業台の上には、「今は使っていなけど時々使うとモノ」がたくさん置いてあるので、現在使用中のモノが近くに置けず、奥に置いてあるのはざらです。
あるいは、アルコールなど、「毎回使うけれど、容器の形や構造が悪く、手に引っかかってこぼすとまずいので、わざと遠くに置いてある」ということも多く見かけます。
先日、H社の組み立ての現場で「動作経済の4原則」に基づいて改善のアイデアを出すパトロールを、社長や管理職の皆さんたちと一緒にしました。
リーダーのSさんの作業場は、さすがに整理整頓が行き届いていて作業もスムーズです。参加の皆さんはここには改善の余地はないと思い始めました。
しかし、これは帰納法的な見方からの結論です(詳しくは、前々回の291話をご参照ください)。
すなわち、H社の皆さんが、Sさんのこれまでの頑張りを知っていて、彼女のラインの状態は会社の中では明らかにトップクラスという見方をしているからです。
これに対し、コンサルタントの私は演繹法的に見ますから、違う結論を出しました。
「皆さん、Sさんが組み立てている小さな部品が入っている部品箱を見てください。奥行きが30㎝あります。すなわち手前の側から取るときと、奥から取る時で30㎝違うということです。この大きな箱でなければいけない理由は全くないと思いますが…。」と私がしゃべり始めたら、Sさんが、こう返答しました。
「私も、前に一回そう考えたことがあるのですが、箱は変えられないものだと思ってそれ以降は全く忘れてしまいました。だけど、確かにそうですよね。前工程の人と相談すればよかったのにしませんでした。ごめんなさい」。
そして続けて、「もしそこまで改善していいなら、たとえばこんなこともできます!」と、コンサルタントの私が舌を巻くようなアイデアが出ること出ること。
周りにいた社長たちも、そのアイデアが呼び水になってワイワイ盛り上がりました。ちょっと前までアイデアが一つも出なかったのに… (^ ^)。
モノを近くに置くなんてことは、基本中の基本で当たり前! なんて言わないでくださいね。
実際はそうなっていないのが現実です。そして帰納法的な見方と演繹的な見方の両方を活用して答えを出しましょう。
4原則をしっかり適用すると、私の経験では20%は生産性を上げられます。