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採用・法律

第59回 『押印の今後』

中小企業の新たな法律リスク

北海道から生鮮食品を仕入れて加工品を製造し、販売店に卸す事業を行っている小田社長が、押印廃止がひろがっているという新聞記事を読み、その内容について賛多弁護士に質問しました。
 
* * *
小田社長:押印の廃止についての記事を見かけるようになりましたが、これはどういう意味があるのですか。
 
賛多弁護士:これまで押印が必要とされてきた手続に、押印がいらなくなるということです。行政の手続のような場面と、会社同士の契約のような場面とに分けて理解するのがよいと思います。
 
小田社長:行政の手続というのは、法務局の登記手続や労働基準監督署への届出のようなものですね。
 
賛多弁護士:そうです。すこし話を戻しますが、押印というのは何のためにすると思いますか?
 
小田社長:押印があるということで、確実な文書ということになっていたと思います。
 
賛多弁護士:そうですね。合意や契約があったかどうかという争いは、古くからたくさんあります。たとえば、契約書があっても一方の当事者から「そんな契約書は作っていない」という言い分が出たりすることがあります。日本の裁判では、契約書に作成者(会社や個人の経営者など)の押印がある場合には、印鑑が偽造されたなどの例外的な場合を除いて、契約書がその会社や個人の経営者によって作成されたと認められることが法律と判例により確立しています。つまり、印鑑を双方が押すことによって、後日の紛争リスクが避けられてきたのです。
 
小田社長:印鑑のある契約書をもらわないと安心できないところがありました。
 
賛多弁護士:行政の手続でも押印が必要だと法律等で定められているものが多くあったのです。しかし、コロナウィルスの感染拡大でテレワークを拡大しようとしたときに、会社の印鑑を押すために従業員が出勤しなくてはいけないということが問題になり、押印の見直しが急速に進んだのです。
 
小田社長:どのように見直されたのですか?
 
賛多弁護士:急速に進んだのは行政手続の場面ですね。それまで押印が必要だった書類に押印が不要になりました。2021年6月11日付けの日経新聞(電子版)の記事によると「政府は押印が必要なおよそ1万5000の行政手続きのうち、法人登記など118の手続きを除く99%超で「脱はんこ」を進める方針だ。5月に行政手続きの押印廃止や公的な給付金の円滑な受け取りなどを進めるデジタル改革関連6法が成立した」とされていて、大部分の行政手続で押印が不要になりました。
 
小田社長:我々、会社同士の契約の場面ではどうでしょうか。
 
賛多弁護士:契約手続の場面でも、銀行や証券会社など金融手続などについて検討が進んでいますね。
 
小田社長:私の会社の取引先でも「紙の契約に代えて電子契約にしてもらえないか」ということを言われることがでてきました。
 
賛多弁護士:これまでは、たとえば窓口の担当者と取引をしても、会社の実印を押印した契約書を授受することで、契約の確実性が担保されていました。しかし、押印を廃止すると、その部分に不安が生じますね。そこで、正当な権限者による契約手続の確保を目的として、電子契約というインターネットを介して権限のある社長などが意思表示をする仕組みが広がっています。
 
小田社長:それが電子契約なのですね。電子契約は安全ですか。
 
賛多弁護士:電子契約業者も増えてきましたので、信頼性の高いところを選び、権限のある者がインターネット上の手続をすることが確保されていれば、信頼性は高いと思います。
 
小田社長:会社の誰でもが、電子契約ができるのではダメということですね。
 
賛多弁護士:はい、そういうことになります。私の事務所も最近電子契約を採り入れています。
 
小田社長:そうなのですね。これからますます広がっていきそうですね。
 
賛多弁護士:ただし、契約書の内容については、従前どおり検討することが必要です。その点は注意が必要ですね。
 
小田社長:その点については、賛多先生、今後ともお願いします。
 
* * *
 
昨年のコロナウィルスの感染拡大を受けて、行政手続の場面では押印廃止が急速に進みました。昨年は印鑑が必要だった届出書について、今年は押印欄が廃止されているというものがたくさんあります。
また、会社同士の契約の場面でも、押印をする紙の契約書に代わって電子契約が徐々に増えてきています。電子契約に切り換えるときには、電子契約を操作する権限を適正に管理することが大切です。また、電子契約は押印作業を電子的に行うものであって、契約書の内容についてレビューするものではありません。内容についてはこれまでどおりの確認をしていく必要があります。
 
 

執筆:鳥飼総合法律事務所 弁護士 竹内 亮

 
 
 

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