「制度を作って終わり」ではない、専門職による伴走
しかし、どれほど素晴らしい制度が揃っていても、それを作って終わりにしてしまっては十分に機能しません。がんと診断された社員が孤立せず、実際に制度を使いこなすためには、さらなる一歩が必要です。
企業は今、「制度を作って終わり」ではなく、産業医や保健師といった専門職がチームに入り込み、一人ひとりに寄り添うサポートへとシフトしています。
例えば、SMBC日興証券では、保健師が両立支援コーディネーターとして常駐しています。健康診断のフォローから職場復帰のプランニングまでを専門職がワンストップで伴走することで、本人任せの孤独な闘いを防ぎ、上司や現場との橋渡し役として機能させています。
また、形骸化させずに制度を文化として根付かせる工夫も重要です。アフラック生命保険では、がん経験者同士が支え合うピアサポートコミュニティ「All Ribbons」を公式に立ち上げ、当事者が孤立しない環境を組織文化として醸成しています。株式会社ポーラでも、「がん共生プログラム」を展開し、現場のスタッフ同士が「お互い様」の精神でシフトを融通し合えるようなワークショップを継続的に実施することで、血の通った協力体制をつくり上げています。
ウェルビーイング経営の本質は、大変なときに支え合うこと
これらの制度や専門職によるサポート、そして現場の取り組みに共通するのは、単なる福利厚生の充実ではなく、「社員が大変な状況に陥ったときにも、見捨てずに支え続けること」にあります。
どれほど手厚い制度があっても、「休むことは悪」「弱みを見せることは敗北」という空気が漂う組織では、病であってもつらさを隠したり、無理をしてしまい、結果として仕事を続けられなくなる状況に陥る可能性が高まります。しかし、日常からお互いの不完全さを受け入れ、対話を重視する土壌(心理的安全性)があれば、がんと診断された時にも「助けてほしい」という声を上げることができます。
その声に組織が温かく応えることで、従業員のエンゲージメントは、平時には得られないほど深く強固なものへと変わります。病を抱える仲間と共に歩むことは、予測不可能なリスクに対して組織全体でしなやかに立ち向かう力――「レジリエンス」を養うプロセスそのものなのです。
おわりに:自分事として仕組みを見つめ直す
ウェルビーイング経営とは、単に元気な人をさらに活躍させることだけではありません。どんなに大きなライフイベントや病という荒波にさらされても、「この会社にいてよかった」「自分らしく存在し続けていい」と思える場所をつくることと言えるでしょう。
このコラムをご覧のみなさんの会社では、がんに直面したときのためにどのような取り組みやサポートがあるでしょうか。また、ご自身が当事者になったとき、どのような制度や支援があれば心から安心できるでしょうか。
がんは日本人にとって決して遠い存在ではなく、非常に身近な疾患です。ぜひ自分事として、いま身を置いている会社の仕組みや支え合いのありかたを見つめ直してみてください。
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