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マネジメント

SpaceX上場に見る、投資家が背負う本当のリスク

楠木建の「経営知になる考え方」

SpaceX上場はなぜ危うく見えるのか

 イーロン・マスク率いるSpaceXがついに上場しました。歴史上最大のIPOとなりました。

 上場後のSpaceXはどうなるか。僕がわりとスキな論客のスコット・ギャロウェイは悲観的な見方をしています。なぜか。SpaceXは玉石混交の事業集合体で、肝心の儲かる商売が衛星インターネットの「スターリンク」ぐらいしかないからです。

 SpaceXは2025年に前年比33%増となる187億ドルの売上高を記録しましたが、利益は2024年の7億9100万ドルの黒字から49億4000万ドルの赤字になっています。その原因は同社のAI部門「xAI」です。昨年、SpaceXが行った約210億ドルの設備投資のうち、127億ドルがxAIのためのデータセンター構築に費やされています。これは同社がロケットや人工衛星の製造に費やした金額よりも多い。

 SpaceXの売上の60%はスターリンクによるものです。単一四半期で33億ドルの売上、12億ドルの営業利益、36%の利益率。しかも強力な競合相手は存在しない。もしSpaceXが衛星インターネットの専業企業であれば、盤石のIPOとなっていたでしょう。

 しかし、衛星インターネット専業であれば、最大2兆ドルの評価額は不可能です。今回のIPOは抱き合わせ販売の最たるものです。しかも、IPO直前になって抱き合わせるのがまたエゲツナイ。現在のSpaceXの事業構造は複雑怪奇です。投資家からすれば本当のところ何に投資をするのかがわかりません。

売上に対して、評価額があまりに大きい

 SpaceXの評価額が下限の1兆7500億ドルであっても、株価売上高倍率(P/Sレート)は94倍――とんでもない数字です。メタ(旧Facebook)が上場した時、同社は88%の成長を遂げており、過去の売上高の28倍で取引されていました。グーグルは240%成長で10倍で取引されていました。SpaceXの引受銀行(バンカー)は、同社の獲得可能な最大市場規模(TAM)は28兆ドルに匹敵すると言っています。これは実に米国経済全体の規模に等しい。

 ギャロウェイはこう言っています。「バークシャー・ハサウェイよりも高い評価額をターゲットにしているが、その売上高は百貨店のメイシーズよりも低い」――ほとんどギャンブルです。スタートアップに対する初期投資ならわからないでもありませんが、IPOとしてはあまりにも荒唐無稽な目標設定に映ります。

マスクに権限が集中する怖さ

 コーポレート・ガバナンスもまた異常です。このIPOの後に世界初の兆万長者(トリリオネア)になるであろうマスクがCEO、CTO、取締役会長を兼任し、総議決権の85%を握ることになります。本人の同意なしに解任されることは実質的に不可能です。「とにかく俺を信じろ」と言っているに等しいのですが、僕の基準では、これほど信用できない人も珍しい。

 通常のIPOでは、全株式の5%から10%を個人投資家に割り当てます。しかしSpaceXは30%の株式を個人投資家に提供しています。イーロン・マスク信者が妄信的にSpaceXの株を買うという期待があるからでしょう。

 僕はSpaceXの評価額は「どうかしている」と思いますし、ガバナンスにも大いに問題がある。が、僕の疑念など大きなお世話です。SpaceXの目標評価額は1兆7500億ドルに達するかもしれません。なぜか。SpaceXの株を買う人がいるからです。

リスクを背負うのは誰か

 経済学者のジョセフ・シュンペーターはイイことを言っています。「起業家はリスクを取らない。情熱を供給するだけだ。一切のリスクはバンカー(投資家)が引き受ける」――その通りです。

 今回もイーロン・マスクはとんでもないリスクをとっているようでいて、実際はそうではありません。リスクはまとめて投資家が引き受けています。マスクについていく投資家がいるからこそ、マスクは好きなだけ暴走できる。一部の投資家はマスクを信じてその構想に賭ける。それはそれでイイ。自由な市場メカニズムの成り行きです。

 もちろん僕はSpaceXの株は(カネをもらっても)持ちたくありません。それでも資本主義のショーとしては面白い。外野で観戦することにします。

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