中小企業が銀行から継続的な融資支援を受けるにあたり、決算より半年が経過している場合や、財務内容に焦点が当たる場合などでは、「月次試算表」の迅速な提出は欠かないことになります。しかし、在庫量が多く、人手不足もあり、実地の棚卸が困難なケースや、そもそも経営者が在庫と利益の関係に無知なケースもあるのが実情です。それが「月次試算表における棚卸未実施問題」です。
現場の多忙さや管理コストの観点からいえば、毎月末に厳密な実地棚卸や仕掛品・原価の正確な計算を行うことは現実的ではありません。その結果、多くの企業では試算表上の在庫(商品・製品・仕掛品)の金額を「前月末と同額のまま据え置く」か、あるいは「経営者の感覚値」で数字を入れてしまいがちです。しかし、この対応こそが銀行の融資審査担当者に強い不信感を与える最大の要因となるものです。
1.銀行員が真に恐れているのは「在庫の不透明さ」です
銀行の融資審査において、審査担当者が試算表を見る際、最も警戒する要素の一つが「不自然な在庫の動き」です。なぜなら、業績が悪化した企業が赤字を隠すために最も使いやすい粉飾の手法が、「存在しない在庫(棚卸資産)を過大計上して売上原価を圧縮すること」だからです。
毎月、在庫の数字が完全に横ばいで推移していたり、売上の上下動とまったく連動せずに不自然な動きをしていたりすると、銀行員は以下のような疑念を抱きます。
「この会社は適切な財務管理や原価管理ができていないのではないか」
「試算表上の利益は見かけ倒しで、裏で隠れ赤字が発生しているのではないか」
たとえ悪意のない「実地棚卸の未実施」であったとしても、数字の根拠を説明できなければ、銀行内での企業格付け評価は容赦なく下落してしまいます。
2.好意的に見られるための実務ロジック「売上原価率法」
毎月の実地棚卸が困難な場合、どのようなロジックで在庫数値を算出して試算表に反映させるのがベストなのでしょうか。
銀行業務の実務上、最も合理的で評価される手法は、「前年度の確定原価率」や「直近の平均原価率」を活用した【売上原価率法】による仮算出だと思います。
例えば、自社の前年決算における売上原価率が65%であるならば、当月の売上高に対して65%を売上原価として計上し、逆算して当月末の理論在庫高を導き出すなどです。これにより、売上の伸長や減少に連動した、極めて合理的な在庫数字を試算表上に反映させることが可能となります。
ただし、売上に原価率をかけるだけでは在庫額はでてきません。
下記の式で計算すると推定値がわかるようになります。

3.銀行の信頼を勝ち取る「注記」の記載テクニック
売上原価率法で算出した数値を試算表に記載した上で、もう一手間加えることが重要です。試算表の余白や、銀行への提出時・面談時に添える補足資料に、以下のような一言(注記)を明記します。
「※本試算表の棚卸高(商品・製品・仕掛品)は、月次実地棚卸未実施のため、前年度確定原価率(%)に基づき概算算定しております。適時に実地棚卸を実施し、差額を確定修正調整いたします。」
このような注記を添えることで、銀行からの評価は「ずさんな管理をしている会社」から、「自社の実務の限界を把握し、合理的に財務数値をコントロールできている誠実な会社」へと変わるものです。
4.月次試算表の運用比較
試算表における在庫処理のパターンと、銀行側の受け止め方をまとめると以下のようになります。

まとめ:完璧な数字よりも「プロセスの透明性」
銀行が中小企業に求めているのは、完璧な確定決算を行うことではありません。実務上の制約がある中で、「どのようなロジックでその数字を導き出したのか」というプロセスの透明性と誠実さです。
「棚卸ができないから前月のまま据え置く」のではなく、「客観的な仮のロジックを用いて算出し、その前提を注記で明記する」。この一手間をかけるかどうかが、いざという時の融資判断や金利・条件交渉において、銀行担当者を強力な味方に変えるポイントとなりえます。

















