さる7月6日、トランプ大米統領はホワイトハウスで、「中国崩壊論」の第一人者として知られるゴードン・チャン氏を批判した。
一国の最高指導者が言論界の人を名指しで批判したのは極めて異例だ。それはなぜか?その背景には何があったか?「中国崩壊論」が流行る日本にどんな影響を及ぼすか?本稿は分析を進める。
●トランプ大統領はゴードン・チャン氏を名指しで痛烈批判
現地時間7月6日、トランプ大統領はホワイトハウスで中国経済などについて質問を受けた際、「中国崩壊論」の提唱者・ゴードン・チャン氏を名指しで批判した。
トランプ大統領は、「ゴードン・チャンはいつも悲観的だ。まるで世界が終わるようなことばかり言う。しかし、それは人騒がせだけで事実ではない」と痛烈批判。さらに、「私はずっと彼の中国論を聞いてきたが、彼は自分が何を話しているのか分かっていない」とも述べた。
トランプ大統領に痛烈批判されたゴードン・チャン氏は一体何者か?
ゴードン・チャン氏は中国系アメリカ人弁護士・ジャーナリストで、中国名は章家敦だ。1951年アメリカに生まれ、コーネル大学ロースクール博士課程修了後、北京、香港、上海の米国系法律事務所に勤務し、中国企業の法律顧問をつとめるかたわら、『ニューヨーク・タイムズ』『サウスアジア・モーニング・ポスト』『ファーイースタン・エコノミック・レビュー』等でコラム執筆も続ける。2001年8月に著書『The Coming Collapse of China(やがて中国は崩壊する)』を出版し、WTO加盟から5年以内に共産党一党独裁体制は崩壊を迎えると大胆に予測した。以来、中国経済や政治体制の崩壊を何度も予測してきた。しかし、その予測は実現せず、これまでもたびたび物議を醸してきた人物だ。
●相手に対する過小評価が政策判断を誤る
トランプ大統領は超大国のアメリカ最高指導者として、中国崩壊論の提唱者を批判することは極めて異例だ。それではなぜトランプ大統領はゴードン・チャン氏を痛烈に批判したか。
まず、ゴードン・チャン氏の「中国がすぐ崩壊する」という持論は、現実から大きくかけ離れ、事実ではない。彼は著書『The Coming Collapse of China』の中でWTO加盟から5年以内に中国が崩壊すると予測したが、見事に外れた。
図1に示すように、WTO加盟前の2000年に、中国のGDPは僅か1兆2055億ドルで、アメリカの12%、日本の4分の1に過ぎなかった。しかし、10年後の2010年に中国のGDPは5倍の6兆338億ドルに拡大。日本を逆転し、アメリカの4割まで差を縮めた。さらに、2020年に中国のGDPは14兆8625億ドルにのぼり、日本の約3倍、アメリカの約7割に相当する。中国はゴードン・チャン氏が予測したように崩壊することがなく、逆に急速な台頭を遂げたのだ。

以降、ゴードン・チャン氏は中国経済や政治体制の崩壊を何度も予測してきた。しかし、中国経済は減速や不動産問題を抱えながらも国家として崩壊しておらず、トランプ大統領でさえその種の「過度に悲観的な予測」と一線を画す。
第二に、トランプ大統領はイデオロギーを嫌う徹底的な現実主義者だ。トランプ政権の対中政策は現実を直視し、中国を「弱い国」ではなく「強い競争相手」と位置付けている。ゴードン・チャン氏の「中国崩壊論」は中国を過小評価し、政策判断を誤り、国益を損なう恐れがあるため、トランプ大統領の現実主義路線と相いれない。
第三に、トランプ大統領が米中交渉を重視している。トランプ政権は関税や安全保障では中国に強硬姿勢を維持しながらも、経済・貿易交渉や首脳外交を進める姿勢も示している。中国が「すぐ崩壊する」と考える前提では、こうした交渉戦略は成り立たない。
●トランプ氏の批判が日本にも影響
トランプ大統領の中国崩壊論者ゴードン・チャン氏に対する批判は、日本にも影響する可能性がある。
周知のように、ゴードン・チャン氏の著書『The Coming Collapse of China』の日本語版『やがて中国の崩壊が始まる』は草思社によって、2001年に出版された。初版刊行からベストセラーとなり、2002年には早くも第23刷に達し、数十万部規模のヒットを記録した。それをきっかけに、中国崩壊論が日本でも流行っている。その流れに乗じて、中国崩壊論者は政治団体を作ったり、政界に進出したりして影響力を拡大している。勢いを増す中国崩壊論は、日本政府の対中政策まで影響していることが否定されない。
しかし、トランプ大統領のゴードン・チャン氏への痛烈批判は、中国崩壊論にとって1つの転換点になる可能性が高い。現実とかけ離れる中国崩壊論が下火となり、事実に基づくリアルな中国論が求められる。(了)


















