従来の家族手当は、専業主婦モデルが一般的だった時代に広まった制度です。そのため近年では「時代遅れ」「仕事と関係ない手当は不要」といった声も頻繁に聞かれるようになりました。しかし、家族手当は単なる生活補助としてだけでなく、創業期の経営者が「社員が安心して働けるように、その背後にいる家族にも目を向けるべきだ」と考えて導入したケースも少なくありません。制度的合理性だけでは語り尽くせない“経営者の情”が背景にあることは、今なお見落としてはならないと思います。
共働きが当たり前となった現在、配偶者手当の扱いに関しては、自社の給与制度内での位置づけを再確認する必要があります。一般には、扶養基準を設ける以上、共働き配偶者は対象外となるため、「配偶者手当は廃止でよい」という議論が起こりやすいのも事実です。しかし、専業主婦が対象のままで良いかという問題は単純なものではありません。
子どもの教育費、地域差、若年層の家計の脆弱性などを踏まえると、生活不安の程度の大きさによっては、配偶者手当が一定の役割を果たす場合もあると考えられるからです。制度の目的を「生活安定」と捉えるなら、配偶者手当の扱いには慎重な対応が求められなければなりません。
一方で、子どもへの支給は、企業が担う“生活安定の補完”としての意味合いが明確に表れます。中小企業は大手企業と比べてベース賃金が低い傾向にあり、若年層ほど「結婚しても子どもを持てない」という生活不安が大きいものです。公的な子ども手当はあったとしても、これは全国一律に適用されるものであり、地域の生活費や企業の賃金水準を反映しているものではありません。ここに、企業が支給することの意味が生まれるのです。なぜなら、若年層の生活不安を和らげることは、採用・定着に直結するからです。
実務的に見ると、配偶者手当を廃止した企業ほど、子どもへの支給額を大きく引き上げる傾向にあることが分かります。配偶者手当を残している企業では子ども1人あたり6,000円前後が多いのに対し、配偶者手当を廃止した企業では1人10,000円前後が一般的となっています。これは子ども支給分を“生活安定の中核”と捉え直した結果だと言えましょう。
すなわち、単に支給額を引き上げたというのではなく、家族手当の目的を企業として「社員の生活不安を和らげること」に再定義した結果だと考えられます。皆さんの会社でも、ひとたび子への支給額を増やすと決めたなら、一定の安心感をもたらす世間並みの水準を目指してほしいものです。
家族手当の問題は、賃金制度論として生活給と職務給のバランスをどう取るかという実務的なテーマでもありますが、社員の背後にいる家族まで含めて安心を提供するという、経営者の“情”に関わる部分を含んだものでもあるのです。この二つを対立させるのではなく、会社として「社員の生活不安を取り除き、安心して働ける環境を提供する」という目的に照らしてどう再定義するかが重要になります。配偶者手当は縮小・整理への流れが一般的ですが、子どもへの支給分については自社の賃金水準と社員の生活実態に応じて、相応な水準を検討していただきたいと思います。
家族手当は、給与制度としての合理性だけに偏ることなく、経営者が持つ「社員とのリレーションシップを大切にしたい」という価値観との両立を図りながらその再設計を進めてください。そうした取り組みは、中小企業の安定した組織づくりにも、必ずや寄与することとなるはずです。



















