混沌・混迷・混乱を極める2021年は間もなく幕を閉じ、新しい年が訪れる。世界経済は依然と様々な不安材料を抱え、不確実さを増すことが確実である。
世界経済の行方を左右する最大の要素はアメリカと中国の経済だが、中国の政治・経済の動向は特に要注目である。筆者は2022年中国の政治・経済動向について、次のように10大予測を行う。
1)ポスト李克強の最有力候補は上海市書記李強か
2022年に中国最大の政治イベントは第20回中国共産党全国大会の開催だ。この大会で党の執行部メンバーを選出する予定。習近平総書記の続投は確実となっているため、次期首相の人選が最大の注目点となる。
中国憲法の規定によれば、首相、副首相、国務委員の任期は一期5年、再任が可能だが、最大2期10年と制限される。現首相の李克強氏は既に2期を務め、23年3月に退任する予定。次期首相の人事は来年秋開催の党大会で決められる。
これまで新首相は例外なく副首相から選ばれる慣例がある。現在、副首相4人のうち、韓正(67歳)、孫春蘭(女、71歳)、劉鶴(69歳)ら3人が年齢の関係で引退する予定。本来ならば胡春華副首相(58歳)が次期首相の最有力候補だが、胡は習近平主席の側近ではないため、習は地方トップから次期首相を選ぶ可能性が高い。意中の人物は李強・上海市書記だ。
習近平氏が浙江省書記(2003~07年)在任中、李強氏は浙江省温州市書記を経て、2004年より省委秘書長を務め、習氏に仕える最側近となる。その後、浙江省長、江蘇省書記を経て17年より党中央政治局員兼上海市書記に就任。ここ数年、上海市は経済成長や社会の安定及びコロナ抑え込みの成功など、中央政府に評価される実績が多く、李強氏もポスト習近平の有力候補の1人と見なされる。来年3月開催の全人代で李強氏は副首相に選任されれば、23年3月に現首相の李克強からバトンを引き継ぐことが確実視される。
2)GDP成長率は5%前後
今年、中国のGDP成長率が8%にのぼる見通しだ。来年、中国経済が不確実性を増すことは確実で、成長率が5%前後にとどまる可能性が高いと見ている。
中国でも新型コロナウィルスの新たな変異型「オミクロン型」が確認され、その終息は見通せない。中国政府はゼロコロナ対策を堅持するため、サービス業への影響が大きく2022年も個人消費が低迷する。インフラ・設備・不動産などを含む固定資産投資の持ち直しも期待薄れだ。
ただし、来年1月1日よりRCEP(地域的な包括的経済連携協定)の発効や欧米諸国の景気回復によって、輸出は堅調さを保ち景気の下支えとなる。
総合的に見れば、2022年に中国経済は内需の低迷が続く一方、輸出と工業生産は伸びる。成長率は今年の8%台から大幅に鈍化し5%前後になるだろう。中国政府は5%成長を確保するために、積極財政や金融緩和など政策総動員に動き出す確率が高い。
3)不動産バブル崩壊リスクが増大、金融危機の発生に至らず
12月9日、格付け大手フィッチ・レーティングスは経営危機に直面している中国不動産開発大手の恒大集団が「一部デフォルト(債務不履行)」に陥ったと認定したのに続き、米格付け大手S&Pグローバル・レーティングも17日、恒大集団の格付けを「選択的デフォルト」に引き下げたと発表。中国企業で過去最大のデフォルトになる可能性があり、「恒大危機」は重大な局面を迎える。
危機の連鎖を未然に防ぐために、恒大集団が本社を置く広東省政府は介入に乗り出した。省政府は「リスクを効果的に解消し社会の安定を維持するため、恒大集団の要請に応じ、同社に作業チームを派遣することに同意した」と発表。作業チームの監督下で恒大集団のリスク対応と経営管理を強化し、経営の正常化を図ろうとする。
来年、「恒大危機」に象徴される住宅バブル崩壊リスクはさらに増大する恐れがあり、中国の経済成長に影を落とすことが避けられない。ただし、「恒大危機」によって、中国は米リーマン・ショックまたは欧州債務危機のような金融危機が発生する可能性が低い。
恒大の有利子負債の多くは、中国の銀行部門やノンバンクに散在している。8月中旬中国銀行保険監督管理委員会の発表によれば、21年6月末時点で中国金融機関の貸倒引当金残高は5.4兆元(約92兆円)。それに対し、報じられている恒大の債務総額は2兆元(約34兆円)。従って、たとえ恒大の債務がすべて不履行になっても、中国の銀行部門で吸収できるはずだ。
中国国外の大手機関投資家が恒大の発行した総額192億3600万ドル(約2兆1746億円)のドル建て社債をもっているが、その規模も国際金融システムを混乱させるほどではない。中国が3兆2224億ドルの外貨準備高を持つことを考えれば、恒大危機が米リーマン・ショックまたは欧州債務危機のように、世界の金融危機の引き金になるとは考えにくい。
4)「国進民退」が一層鮮明に
今年、中国政府は「資本の無秩序拡張禁止」や「独占禁止」及び「共同富裕」という名目で、アリババ、テンセント、滴滴出行など大手IT企業に対し、引き締めを強化した。これらの企業は例外なく業績悪化や株価暴落に陥った。BATH(百度、アリババ、テンセント、ファーウェイ)に代表される中国のIT企業は、GAFA(グーグル、アマゾン、フェースブック、アップル)に代表される米国IT企業との差が大幅に拡大し、後者に追い付くのが一層困難となっている。
また、中国政府は7月24日、学校の宿題と校外学習による子どもの負担を減らす「双減」政策を発表。民間学習塾には非営利団体に転換するよう求め、休日の教育サービス提供を禁じており、事実上の「塾禁止令」が打ち出された。「塾禁止令」によって、学習塾のほとんどは今、経営破綻に直面している。
こうした中国政府の引き締め対象は、いずれも民間企業であり、国有企業ではない。「国進民退」(国有企業が前進し民間企業が後退する)が鮮明となった。来年、この傾向が一層加速する恐れがあり、中国経済への悪影響が懸念される。
5) 若者たちは失業の波に襲われる
長引くコロナ禍の影響、「国進民退」、不動産業界の低迷などによって、中国の失業率が上昇している。当局の発表によれば、今年11月失業率が5%で、前月より0.1ポイント上昇。際立つのは若者たちの失業率だ。16~24歳人口の失業率が14.3%、20~24歳人口の失業率が20%で異常に高い。
中国教育省の予測によれば、2022年に卒業する学部生・大学院生が合計で1000万人を超える。習近平主席の恩師である清華大学社会学教授孫立平氏は、2022年に中国は失業の波に襲われる可能性が高いと指摘している。生産年齢人口の新規雇用、特に若者たちの新規雇用をどう創出するかが中国政府を悩める難題となりそうである。下手をすれば社会不安を招く恐れがある。
6)北京冬季オリンピックが盛況・成功に開催
アメリカのバイデン政権は「中国の人権」問題を理由に、北京冬季オリンピックに対し「外交的ボイコット」と声高らかに宣言したが、同調者はオーストラリア、イギリス、カナダ、リトアニアなど4ヶ国にとどまり、影響が軽微と見られる。「外交ボイコット」はほぼ無意味に等しいと思う。
中国は予定通りに北京冬季オリンピック・パラリンピックを開催する。習近平政権は五輪開催を国威発揮の好機と捉え、大勢の国内観客を動員し、盛況・成功の開催を目指す。無観客開催の東京五輪との差別化も狙う。
7)RCEP発効で中国のCPTPP加盟申請に弾み
中国主導で、ASEAN10ヶ国及び日中韓、オーストラリア、ニュージーランドなど合計15ヶ国が調印したRCEP(地域的な包括的経済連携協定)は22年1月1日に発効する。
米中対立が激化し、アメリカによる「中国包囲網」が構築しつつあるなか、RECPの発効は中国経済にとって、数少ない朗報の1つとなろう。
RCEPの発効は、短期的に中国の輸出増加に寄与し、中長期的に中国のCPTPP加盟申請に弾みがつく。シンガポールは22年のCPTPP委員会議長国となる。同国は中国の友好国であり、米中対立に対し中立的な立場を取っているため、中国の申請審議をめぐりある程度の進展が見られると思う。一方、中国の加盟実現に道のりが長く、容易ではないことも予想される。
8)米中対立が激化する一方、貿易交渉が進展も
米中間の激しい対立が来年にも続く。アフガンでの失敗、内政上の失策などによって、バイデン政権の支持率が低下している。2022年11月の中間選挙を控えるなか、バイデン政権は対中強硬姿勢以外に選択肢がない。一方、中国も共産党全国大会という政治イベントを控え、アメリカに妥協する余地がない。
従って、人権問題、台湾問題、新彊ウィグル問題、安全保障などの分野では米中対立が激化する可能性が高い。一方、米国内のインフレ高騰を抑制するため、バイデン政権はトランプ時代の対中関税を一部撤廃するという現実主義対策を取るかも知れない。米中は貿易交渉を再開し、進展が見られることもありうる。
9)台湾海峡の緊迫状態が続くが、戦争衝突に至らず
来年、台湾海峡の緊迫状態が緩和する要素が見当たらず、一触即発の状態が続く見通しだ。
ただし、2022年に北京冬季オリンピックの開催があり、秋には共産党全国大会の開催も予定される。この2大イベントの成功を確保することは習近平政権の至上命令だ。突発事件が無ければ、中国側は武力行使で台湾問題を解決するシナリオが考えにくい。
2023年以降、中国に注目されるピッグイベントがなく、動きやすい時期に入る。中国は武力で台湾を統合するリスクが増大し、「台湾有事」が迫ってくる。
10)習主席の国賓来日が難しく、日中関係の大幅改善も期待されず
来年は日中国交樹立50周年を迎える。本来ならば、日中関係改善の契機となるはずだが、現実には改善の機運が見られない。
現在、日中双方は相手に対する国民感情が悪化している。今年10月30日に発表した、日本「言論NPO」と中国国際出版集団が行われた日中共同世論調査の結果によれば、日本側で中国のイメージが「良くない」と「どちらかといえば良くない」と答えた人は前年比1.2%増の90・9%に達した。一方、中国側でも日本に対し良くないイメージを持つ人は全体の66.1%を占め、前年比で13.2%も増加した。
日本では「中国脅威論」が台頭し、対中国民感情も悪化しているなか、習主席の国賓来日の実現が難しい。日中関係の大幅な改善も期待されない。