顧問弁護士である賛多弁護士は、SaaSビジネスを営む柴田社長から資金調達に関する相談を受けています。
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柴田社長:以前は大変お世話になりました。また新しいアイデアがいくつも思い浮かんできたため、いくつかに手を付けて事業を拡大していきたいと考えている一方で、拡大のための資金が心許ない状況でして、どうにか打開したいなと考えています。
賛多弁護士:そうなのですね。そうすると、新たな資金調達を検討されておられるのでしょうか。
柴田社長:はい、そうです。ただ、今までの業績を勘案して銀行から借入れを実施することはできると思うのですが、金利も高いですし、現状の業績でちゃんと返済し続けられるのかは心配です。また、私や弊社の他の取締役から弊社に対して少なくない金額を既に出資したり役員貸付けしたりしておりまして、どうしようかなと考えているところです。
賛多弁護士: 御社であれば問題ないかとは思いますが、借入れとなると不安はありますよね。そのような状況ですと、第三者に株式を発行して資金調達を実施することをご検討されておられるのでしょうか。
柴田社長:はい、検討しています。クラウドファンディングも含め色々な資金調達方法を勉強中でどの資金調達方法を採用すべきか悩んでいますが、資金調達方法の検討のスタートとしては、まずは色々な人に声を掛けて新株を発行して出資を募ることを考えています。ただ、株主が多くなってしまって株主管理が大変になったり、経営の機動性が落ちてしまったりするなど、株主が増えることの問題もありますよね。
賛多弁護士:一般的にはそのように言われていますね。確かに株主が増えることによる負担はゼロではないですが、上場も見据えて事業運営をするのであれば、どこかの段階で対応しなければならない問題ではありますので、今のうちに徐々に慣れておく必要はあるかなと思います。また、株主総会の開催や株主管理等様々な経営課題を解決するためのツールも増えてきていますので、これを利用することにより負担を軽減することもできるかと思います。
柴田社長:こういった方法で資金調達を実施するにあたって特に注意することはありますか?
賛多弁護士:普通株式にするのか種類株式にするのか、1株当たりのバリュエーションをいくらにするのか等決めなければならないことはかなりありますね。また、株式を発行するにあたって必要な法定の手続もしっかりと把握される必要があるかと思います。加えて、多くの方に出資を求めることとなるかと思いますが、その際に何人に対して出資のお願いをしたのか、いくら調達を実施するのかをしっかり管理する必要があります。
柴田社長:人数管理等も必要なのですね。どういった理由で管理が必要なのでしょうか。
賛多弁護士:金融商品取引法上の開示規制を遵守するためです。資金調達のお願いが金融商品取引法に定める「募集」という行為に該当すると、金融商品取引法に定める有価証券届出書や有価証券通知書の提出義務が発生することとなります。特にこの資金調達で1億円以上の調達を実施することとなると、基本的には、有価証券届出書の提出が必要となり、その後も有価証券報告書の提出が必要となってしまい、実務的には非常に大きい負担を強いられることとなってしまうのです。
また、資金調達で1000万円超1億円未満の調達を実施することとなると有価証券通知書の提出義務があり、1000万円以下の調達を実施することとなると有価証券通知書の提出は不要となっています。
柴田社長:1000万円以下だと特別の対応は不要になるのですね。
賛多弁護士:はい、そうです。ただ、1000万円までしか資金調達を実施できないとなると、ビジネス的には全然足りないですよね。
柴田社長:そうですね。折角資金調達を実施するのであれば、開発したいものに必要な費用を考えても1億円以上集めたいですね。どういう行為が「募集」に該当することになるのでしょうか。
賛多弁護士:株式による資金調達だと、新たに発行される株式の取得の申込みの勧誘等一定の行為を50名以上の者に対して行う行為が「募集」に該当することとされています。ここでは実際に株式などを取得した人数ベースでカウントするのではなく、勧誘した人数ベースでカウントすることに注意です。
柴田社長:何度も分けて勧誘をすれば大丈夫なものなのでしょうか。
賛多弁護士:人数のカウント方法が厳密に定められているのですが、およそのイメージとしては3か月で50名以上の者に対してこれら一定の行為を行ってしまうと「募集」に該当してしまうことになりますので、何度も分けて勧誘をするとしても、3か月で50名以上にならないように注意する必要があります。他にも様々な規制があり、重要な論点が多いですし、他の論点も気になるでしょうから、ご説明させていただきますね。
柴田社長:そんな規制があるなんて知りませんでした。ありがとうございます。どうぞ宜しくお願いいたします。
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新株発行を用いた資金調達の実施は、伝統的な手法として一般的に知られている方法ではありますが、これを実施するにあたって様々な論点が含まれており、十分に理解して実施する必要があります。
本稿では、導入として金融商品取引法上の論点に簡単に触れましたが、他にも様々な論点があり、また、資金調達方法ごとにそれぞれ論点も異なりますので、資金調達をご検討されておられるのであれば、まずは専門家にご相談いただき、各手段に関する規制、必要な手続を予めご確認されておくことをお勧めいたします。
執筆:鳥飼総合法律事務所 弁護士 鵜飼剛充