過当競争の居酒屋業界の中で、着実に業績をあげ快進撃を続けているのが、肉屋が直営する素材厳選の焼鳥居酒屋「居酒屋大(ビッグ)」(運営会社は株式会社ビッグミート)である。埼玉を中心に東京も含めて13店舗のチェーン展開で、家族連れ、会社員、地域の女性など、8割の常連客で賑わっている焼鳥居酒屋で7年連続売上げを伸ばし続けている元気企業だ。
他の居酒屋との違いは焼鳥コーナー(焼きたての販売)が充実していることだ。このテイクアウト部門は飲食店内の総売上げの17%を占め、安定した経営を実現している。店員が焼鳥を焼きながら、通路を通る人たちに「いらっしゃいませ、いらっしゃいませ」と元気に呼びかけ、焼鳥特有の煙と匂いのシズル感が集客の効果を上げている。
この店の最大の特徴は「国産、手刺し」の焼鳥であること。肉屋直営なので上質の肉を安く大量に仕入れ、低価格で販売できることである。本社工場で1日1万本の焼鳥を手作業で製造する、手づくり感にこだわっている。「機械で刺したものと、手刺しは食べたらわかる」お客が増えているのだ。
商売繁盛の秘訣は何か。神宮律男社長(61歳)は「人」で決まると自信を持つ。同社には社是、社訓がないが、「元気で笑顔、一生懸命」が社長の口ぐせであり、経営信条が徹底されている。神宮社長は「経営はこうだ、という道は見えない。いろんな道を創りながら一本の道が見えるように創るのではないですか」と抱負を語る。
神宮社長は熱血漢、情熱の人である。鹿児島から18歳で上京、サラリーマン、肉屋で修行し、29歳、精肉店で独立。35歳で居酒屋ビッグを開業した。上京以来、神宮社長の志は自分で会社を起こすことだった。神宮社長の好きな言葉の一つが、同郷の西郷隆盛と親交が深かった志士、平野国臣が語った「わが胸の燃ゆる思いにくらぶれば、煙はうすし桜島山」である。
神宮社長の日課の一つが「営業日報」のチェックである。店毎に社員が交代で日報を書く。チェックするが、厳しいことを指示するよりも、書いている人の心の状態を見抜き、励ますことに徹底している。コミュニケーション不足、社員教育の難しい時代。人情経営者の神宮律男社長の声をかけるから信頼関係が生まれるという、オーソドックスな行動こそ、人をひきつける魅力ある経営が実現することを証明している。
上妻英夫