「人事評価は、絶対評価で行うべきか?それとも相対評価によるべきか?」評価のあり方を巡っては、評価手法の是非が幾度となく議論されてきました。
本コラムでの回答を先に示すと、「評価すべき対象物に合わせて、評価手法もそれにふさわしいやり方を採用すべし」となります。いま評価対象として、何を評価すべきなのかということを脇へ置いておいて、評価のやり方だけを捕まえてどちらが正しいかを論じることに意味はないのです。本コラムの第10話で概要をお話しましたが、評価の「納得性」に関わる大切な部分ですので、今一度おさらいをしておきたいと思います。
読者の皆様の中には「人事評価なのだから、評価対象は当然社員に決まっているのではないか」と思われる方がいるかも知れません。でも、ある時点で社員の保有能力や業務適性が備わっているかを判定しようとする場合と、特定の期間における具体的な仕事の成績を確認する場合とでは、評価する対象が違うわけですから、自ずと評価のやり方もそれに合ったものでなければいけないのです。
前者は「一定時点」における能力や適性が要素・項目ごとにどの程度まで備わっているのかを判断するのが目的であり、あらかじめ定められた到達基準に従って評価されます。つまり、その本質は到達度評価でありますから、評価手法は自ずと絶対評価となります。企業の財務分析になぞらえてみると、貸借対照表(B/S)によって期末時点での財務状況が示されるのに似て、特定時点でのポテンシャルを表しているといえるでしょう。このような能力・適性を判断するための評価は、昇格昇進や配置転換のための資料として用いられるほか、昇給評語決定のための補助資料としても活用されるものです。
後者は「一定の期間」における仕事の成績(プロセス及び成果)について、等級別にその仕事の成績を比較考量し、相対優位にある者(働きぶりの良い社員)に高い評価と処遇を与えるための評価です。これこそが適正な競争原理を根付かせることのできる成績評価制度のコンセプトであり、当然に相対評価によって行わなければなりません。財務分析に例えれば、こちらは損益計算書(P/L)。すなわち特定の対象期間における発揮能力の優劣を判断するためのものと考えれば良いでしょう。
この成績評価の結果が、第一義的には賞与の合理的な配分に活かされ、1年分(過去2回)の評価結果は昇給評語の決定時に反映され、直近の数年間の昇給履歴が昇格判定にも影響を与えることになります。つまり、トータル人事システムのなかで、半期ごとの仕事力を見極める成績評価が、すべての人事評価のスタートに位置付けられる所以です。
今回は、2つの人事評価を財務諸表になぞらえてみましたが、財務諸表が全て数値で表されるのに対し、人事評価では業務行動の質の高さが問われるという点で、大きな違いがあります。
損益計算書では、対象期間における売上高、営業利益、経常利益、当期純利益などが実績として明記されて、客観的に分析することができます。社員の評価も、売上高や粗利益などの営業実績を主な評価指標として評価すればよいと考える会社は少なくないようです。特に営業社員に対しては、「業績指標によって客観的に判断すれば良い」と話される社長も数多くいらっしゃいます。そうした経営者の考えの根底には、客観的な数値指標による定量評価(絶対評価)こそが、社員の納得させる唯一無二の方法であると考え方があるようですが、これは明らかな間違いです。
評価対象である仕事の成績(プロセス・成果)とは、その仕事の品質を問うものであり、その社員が会社にもたらした価値に光を当てるものでもあります。
同じ等級(=担当職務の責任レベルが同一)の社員のうち、大口顧客を抱えているベテランが期待通りの収益を上げたことと、若手社員が新規の取引先を開拓してきたことを、現時点での営業利益や経常利益の絶対値だけを見て判断することが正しくないことは誰の目にも明らかです。評価要素および着眼点ごとに相対比較しながら、「仕事の品質」が優れた者を正しく確認していかなければなりません。
幹部社員の場合はどうでしょうか。A部長は、具体的な行動計画を策定し、個々の部下に対するOJTとともに進捗管理に気を配り、部全体の業績目標を達成しました。これに対し、B部長は何ら具体性あるアクションプランを示すことなく、有能な部下の努力と工夫に頼りっきりだったにもかかわらず、部下の頑張りで当初目標を超える業績を挙げました。どちらも「結果よければ全てよし」でいいのでしょうか。幹部社員に対する評価でも、「マネジメントの質」をしっかり確認しなければ管理職のレベルアップや組織力の向上に繋げることはできないということを肝に銘じるべきでしょう。
仕事の成績(プロセス・成果)を評価対象とするということは、仕事の品質をしっかり確認しようということに他なりません。等級別に仕事の成績を比較考量し、相対優位にある者(働きぶりの良い社員)に高い評価と評価が反映された賃金処遇を実現することを通じて、“切磋琢磨する気風”を会社に根付かせていただきたいと思います。