経常利益率10%を超える高収益企業にして、安定雇用・高賃金を貫くスター精密。
かつてリーマンショックの影響で、85億の大赤字という最悪期でも人員削減・給与カット一切ナシで、翌年には業績をV字回復させた。様々なカタチで「賃上げ圧力」が強まる今、同社の佐藤社長が実践する、「社員個々の給料を上げながら、同時に、総人件費を抑制して増益に結びつける経営」の要諦をうかがった。
■佐藤 肇(さとう はじめ)氏
スター精密[東証プライム]代表取締役会長
実父・誠一氏が裸一貫で創業したスター精密に入社。父から受け継いだ経営ノウハウを、佐藤式先読み経営としてさらに進化させ実践。その結果、「海外売上比率8割超」「高収益・自己資本率7割」の超優良企業へと育て上げる。 2017年3月より代表取締役会長。
著書に『佐藤肇 経営の決断101項』『社長が絶対に守るべき経営の定石50』『先読み経営』『社員の給料は上げるが総人件費は増やさない経営』『社長としての人件費計画の立て方』(共に日本経営合理化協会刊)
─給与水準が地域トップクラスを誇るスター精密ですが、「社員の処遇」における経営哲学をお聞かせください。
わが社は親父が裸一貫から興した会社だが、創業来、「企業は永遠に発展し、社員の生活はたゆまず向上する」という労使共通の目標がある。正直言って、当時の給与は地域水準よりかなり低かったが、「俺を信じてついてきてくれ」という社長の呼びかけに社員が呼応する形で、業績も給与も共に一歩一歩引き上げてきた。
優れた経営手腕や並外れた先見性があっても、社長が考えた戦略や戦術を実行するのは社員だ。私自身、リーマンショック後の大赤字を経て、骨身にしみてそう実感した。親父直伝の経営法を実践していたおかげで内部留保は万全、自己資本比率81%を堅持し、たとえ売上がゼロになっても数年持ちこたえられる財務体質になっていたが、社長一人では何もできない。奇跡のV字回復は、社員が結束し、本気でついてきてくれたからこそだ。
要するに、社員のやる気の源泉は「社長への信頼感」であり、この信頼関係を強固なものとするために、社長は何が何でも社員の処遇と会社の業績を向上し続けなければならない。ちなみに、私は高校生になるまで借家住まいだった。便所も汲み取り式の古い家で、当時は不満に思ったものだが、社員の8割が持ち家になったら、立派な自宅を建てようと誓っていた親父の心情が、いまは痛いほど分かるようになりました。
─体力のない中小企業に賃上げ余力はありません。どう手を打つべきでしょうか?
まず、安易な賃上げは厳禁。人件費は、経営コストの大部分を占めている。しかも固定費だ。それを毎年上げていきながら、利益を伸ばす。それも「売上げが大きく伸びるのが難しい、これからの経営環境において」という但し書きつきで、だ。
そもそも、中小企業の人件費は「少ない原資を少ない人数で分ける」のが鉄則である。小さなパイを大勢で取りあえば、しょせん生活の向上など望むべくもない。まして原資の制約は一層厳しくなると肝に銘じて、事業の拡大にも安易に人員を増やしてはいけない。人員の増加は「労働生産性」(一人あたりの稼ぎ)でキッチリ裏付けた上で、定員内でどう経営するかを考えていただきたい。
また、少ない原資の分け方にも相当の工夫を要する。たとえば従来の年功序列型賃金制度に、大幅な修正を加える必要がある。すなわち、少ない原資を有効に配分するために、一律の昇給ではなく、社員の利益貢献度によってメリハリをつけた公平な人件費の配分が望まれる。
もちろん、原資である付加価値(粗利益)を増やすために、事業の先を読んで、儲かる事業のみに注力することも最重要である。売上が大きくても利益率の低い事業は早めに捨てる。そうしなければ、「最小の人件費で最大の利益をあげる」ことなど絶対にできないからだ。
これから自社の事業発展をどう築くか、
・そのために、どんな仕事を何人で賄い、
・どのくらいの付加価値を稼ぎ、
・いくらの人件費を割り当てれば、
狙いとする労働生産性と利益が確保でき、同時に、社長の手足となってくれる社員の幸福を実現できるか…に知恵を絞り、それらを数値で具体的に裏付けていかなければならないのである。
─佐藤社長は、その経営法を勉強会にて中小企業経営者に指導されていますが、多くの会社が実績を挙げておられますね。
たとえば、卸・小売・通販の3部門で薬・化粧品を販売する年商65億円・従業員82人の会社は赤字の卸から撤退し、利益率の高い通販部門に経営資源を集中することで5年で総人件費を32百万円削減、労働生産性を約360万円増加させた。13店舗を展開する和食屋チェーンを営む会社(年商14億円、従業員90人)は、人件費の変動費化と戦略的設備投資により、1店舗あたりの人件費を約700万円削減して利益1.3倍増、労働生産性も約460万円増加させた。あとは雇用形態を11通りに革新して、社員に地域トップレベルの給料賞与を支給し、なおかつ契約社員やパートも厚遇して、人手不足のご時勢に優秀な人材を安定確保している会社もある。
とにかく、自社の実情を数字で的確につかみ、何通りも真剣にシミュレーションしてみることだ。計算自体は簡単だが、5年後の人件費を考えることで、何もしなければ加速度的に増え続ける人件費にどのような手を打つべきかという発想と創意工夫が、社長であれば必ず出てくるはずだ。詳しいノウハウは、昨年12月に出版した『社員の給料は上げるが、総人件費は増やさない経営』という本にすべて公開したので、経営のご参考にしていただければ幸いである。
(聞き手/高橋悦子)
「愛読者通信」(2015年1月)掲載
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2023年4月15日(土)10:30~17:00
(会 場:日本経営合理化協会)
【3泊4日 完全合宿】
2023年 4月30日(火)~5月3日(水)
合宿初日 10:45開始 合宿最終日 13:20終了
(会場:ホテルグランヒルズ静岡)
▼詳しくは日本経営合理化協会サイトをご覧くださいませ
https://www.jmca.jp/semi/S231304
【経営合理化協会・関連YouTube動画】
【キャッシュ重視の経営】
スター精密会長 佐藤肇氏
我社を好不況に左右されないお金持ちの会社にするにはどうすればよいか。
https://www.youtube.com/watch?v=f5RMy8gclTo