menu

経営者のための最新情報

実務家・専門家
”声””文字”のコラムを毎週更新!

文字の大きさ

健康

第78回 小谷温泉(長野県) 歴史ある名湯がつくり出した芸術に酔いしれる

高橋一喜の『これぞ!"本物の温泉"』

■湯の花にクレーム!?

 この温泉、汚れている!──。ある温泉に入浴していたら、40代くらいの男性グループが騒ぎ出した。どうやら温泉の中に含まれる赤茶色の湯の花を、人間の垢と勘違いしたようだ。このときは、私が「それは湯の花ですよ」と言うと、彼らは納得してくれたが、実際には「温泉が汚い」と宿にクレームを言う客もいる。


 だから、温泉宿の中には、湯の花をフィルターで取り除いたり、循環ろ過したりして、「キレイな温泉」にしてしまうケースもある。温泉ファンの立場からいえば、「もったいない」のひと言に尽きる。


 湯の花が舞う温泉は、本物の温泉である。温泉の成分が濃い証拠だ。だから、湯の花に出合うと私は「いい温泉だなあ」と気持ちもたかぶる。なかでも思い出深いのが、長野県北部、日本百名山のひとつである「雨飾山」の麓に湯けむりを上げる小谷(おたり)温泉だ。


 日本有数の豪雪地帯である山あいに湧く小さな温泉地だが、歴史は古い。開湯は1555年で、武田氏の家臣・岡田甚一郎により発見されたといわれる。その後は、農閑期の湯治場としてにぎわってきた。

 

■江戸時代からの歴史ある建物

 現在は江戸時代から続く「大湯元山田旅館」の一軒のみである。3階建ての鄙びた木造建築が風情漂う老舗宿。本館、別館など6棟が国の登録有形文化財で、本館は江戸時代の建築だ。これらの建物を見学するだけでも十分に価値がある。しかも、昔ながらの自炊施設を備えている。東北や九州以外の自炊宿というのは、今では貴重な存在といえる。


 小谷温泉は、明治時代にドイツで行われた温泉博覧会で、日本の「4大温泉地」のひとつとして紹介されたという。なんと残りの3つは、別府温泉(大分県)、草津温泉(群馬県)、登別温泉(北海道)という大温泉地。かつては、日本を代表する温泉地のひとつであったことがうかがわれる。


 この博覧会に紹介された源泉が山田旅館から湧いている湯で、今もなお当時と同じ湯船に注がれている。この湯船がある浴室は、タイル張りのレトロな雰囲気で、湯船は6人ほどが浸かれるサイズ。すでに常連らしき3人の先客が湯浴みを楽しんでいた。

  源泉は2メートルくらいの高さから打たせ湯のように落ち、大量にかけ流しにされている。ドカドカという音が浴室に響き渡る。
 黄色をおびた湯は、ぬるっとした肌触りが特徴で、飲泉すると、炭酸味と鉄味がしゅわっと口の中に広がる。赤茶色の湯の花も無数に舞っており、温泉成分の濃厚さを感じずにはいられない。

 

■25年の歳月がつくり出したもの

 大量に源泉があふれ出していく湯船の中でまどろんでいると、浴室の片隅に、赤茶色をした丸太のような物体が目に入った。長さ1.5メートル、厚さ30センチほどあるだろうか。最初は、休憩用のベンチかと思ったが、それにしてはいびつな形状である。


 しげしげと丸太らしきものを見つめていると、常連のお爺さんが口を開いた。「それは湯の花(析出物)のかたまりだよ。打たせ湯の湯口から垂れ下がるように堆積した湯の花が、自身の重みに耐えきれなくなって落ちたものだ」。


 なんと25年もの年月をかけて堆積したという。湯の花の断面は、大木の年輪のようになっており、歴史の長さを物語っていた。数々の湯の花を見てきたが、これほどの代物には、めったに出合えない。天地がつくり出した「美術品」を鑑賞しながら温泉に浸かれるのも、山田旅館の魅力である。


 外にある露天風呂も人気だ。2014年、薬師堂の建物を利用して昔あった外湯を再建。男女別の湯船は周囲の山々を一望できる絶景温泉である(冬期閉鎖)。せっかくなら宿泊して、内湯と露天の両方を満喫したい。

 

第77回 於福温泉(山口県)日本屈指の泉質を誇る「道の駅の湯」前のページ

第79回 塩原元湯温泉(栃木県) 1200年の歴史を誇る黒・白・緑の極上湯次のページ

関連記事

  1. 第62回 登別温泉(北海道) 5つの泉質と35の浴槽が楽しめる「絶景温泉」

  2. 第14回 三朝温泉(鳥取県)「浸かってよし、飲んでよし、吸ってよし」の放射能泉

  3. 第108回 由布院温泉(大分県) 人気温泉地は水と山のパワースポット

最新の経営コラム

  1. 朝礼・会議での「社長の3分間スピーチ」ネタ帳(2024年3月20日号)

  2. 第90回 交際費対象外の飲食費1人10,000円に引き上げ

  3. 第148回 メシの種探検隊レポート

ランキング

  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5
  6. 6
  7. 7
  8. 8
  9. 9
  10. 10
  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5
  6. 6
  7. 7
  8. 8
  9. 9
  10. 10

新着情報メール

日本経営合理化協会では経営コラムや教材の最新情報をいち早くお届けするメールマガジンを発信しております。ご希望の方は下記よりご登録下さい。

emailメールマガジン登録する

新着情報

  1. キーワード

    第68回 在宅勤務
  2. 税務・会計

    第2回 右肩上がりの時代は、どんぶり勘定でよかった。
  3. 税務・会計

    第24回 第1回経営会議の進め方
  4. 健康

    第15回 瞑想で、集中できる脳になる
  5. マネジメント

    マキアヴェッリの知(10)組織永続の秘訣
keyboard_arrow_up