中小企業であっても、大手に負けない賃上げ率を継続!
10月下旬に入り、すでに来春の賃上げがニュースで採り上げられています。
連合は、2024年春闘で5%以上の賃上げを要求する方針を示しました。基本給を底上げするベースアップが3%、定昇分と合わせて5%以上を目指すということです。2023年度は「5%程度」が統一要求でしたので、これを更に強めた形となります。
連合集計による2023年春闘の妥結結果(平均賃金方式)は、企業規模300人以上で3.64%、300人未満でも3.23%とそれぞれ前年比で1%以上増加しました。経団連の集計でも、大手企業3.99%、中小企業3.00%と、やはり前年を1%以上上回る結果となっています。
中小企業(連合:300人未満)は3.23%となりましたが、このうち1.8%が定期昇給分(賃金カーブ維持分)だとすると、ベースアップ分はわずか1.48%です。2022年度消費者物価指数(全国コアCPI:除く生鮮食品)の上昇率は3.0%ですので、ベア分では物価上昇分の半分もカバーできていないことになります。
直近の9月の消費者物価上昇率は、全国コアCPI+2.8%、全国新コアコアCPI(除く生鮮食品・エネルギー)+4.2%となりました。物価上昇が続く中にあって、8月の実質賃金(速報)では17か月連続でマイナスを記録、賃金が物価の上昇に追い付けない状況は続いています。来春の労使交渉では、実質賃金がプラスに転化できるかどうかが焦点となるでしょう。
ところで、これまでの賃上げ妥結結果を見ていると、「大手企業はいつでも賃上げ率が高く、企業体力の劣る中小企業で賃上げ率が低いのが当たり前だ」と思ってしまいがちです。しかし、これは明らかに間違いです。
実際のところ、1990年代に入るまでは、大手企業と中小企業の賃上げ率は拮抗していました。中小企業といえども成長・発展を目指し、大手企業に片を並べる賃上げを実施する企業が多くあったのです。しかし、バブル崩壊後の93年ごろからは、「大手企業の賃上げ率が高く、中小企業の賃上げ率が低い」状態が当たり前になり、今日に至っています。
「ベース賃金の高い大手企業ほど賃上げ率が常に高く、ベース賃金の低い中小企業の賃上げ率が常に低い」という状況が30年も続いたために、企業規模間での賃金格差は大きく広がりました。
こうした状況を打破するには、中小企業であってもその生産性を高めつつ、大手企業にも負けない賃上げ率を継続し、戦略的・計画的に賃金水準の引上げを図ることが大切です。
今日の人手不足は「景気の波」によるものではありません。人口減少が進むなかにあって少子高齢化がさらに進行するという状況は、我々が初めて直面する構造的な問題です。
ただし、どのような環境下にあっても人材の獲得、育成、定着なくして事業の発展は望めません。その優良な人材確保のためには、世間並み以上の賃金水準を目指し、そして社員が将来を見通せる人事体制作りを急ぐことが求められます。