2003年のスパイダーマン以降、USJは大きな投資を行っていません。もともと2年ごとに50億円という単位での投資を計画していましたが、スパイダーマンで200億円以上投資したこともあり、その後は大きな投資ができずにいます。
この間役員が入れ替わるなどの人事体制が刷新されましたが、この時期からUSJの意気込みに変化が感じられるようになりました。最初の変化は2005年ごろ。入場ゲート前に多くのアンケート収集要員が配置されました。営業時間中ほとんどの時間をゲート前でゲストからの情報を収集する作業を始めています。
加えて、ゲストに対して積極的に年間パスポートの利用を促すようになりました。開業時は入場微制限のないタイプ(プラチナパス※現VIPパス)大人45,000円、小人30,000円で販売されていたものですが、不祥事以降お詫びと称して大人23,000円、小人14,900円と大幅に値引きしました。入場料金の改定に合わせて、2006年以降はじわじわと値上げされていきます。しかし年間パスポートの料金を入場料金で割ると4~5の間になり、年間で6回以上来れば元が取れます。利用に制限のあるゴールドパスタイプに至っては3回~4回(現行の入場料金で考えると3回で元が取れる)。
施設側にとっては入場料収入が大きく減少することになりますが、反面顧客の属性などそれまで知りえない情報を手に入れることができるようになりました。
実は年間パスポートの効果はここにあります。しかも年間パスポートは個人が何回来るかという履歴も取れます。
そして、2006年のスペースファンタジーライド(それまでのETアドベンチャーに代わり)、2007年にはハリウッドドリームライドが登場しました。
実は、テーマパークを名乗っていた施設が、再投資時の集客の目玉としてコースターを入れている例は結構存在しています。
ポルトヨーロッパ → グルグルコースター
スペースワールド → タイタン
パルケエスパーニャ → ピレネー
開業当初はなかったが、何年かするとコースターライドを集客の軸に据えている施設です。
コースターのないテーマパークで来場者にアンケートを取った場合、「希望するアトラクション」はたいていの場合コースターライドが入ってきます。USJの場合も来場者から積極的にアンケートを取っている施設でしたので、この流れはある種の既定路線ともいます。
しかし、入場者の減少は歯止めがかからず、2009年までは入場者数は減少し続けました。
1)ここから学べること
この時期に行った施策はこの先のV字回復時の基礎データとして使われました。その意味で施設の営業は苦しいながらも、施設の実績や顧客動向を把握しようとし続けたことは不幸中の幸いと言えます。
営業が苦しくなると、「客が来ない」と騒ぐだけになってしまうが、実際に来ている客の声を積極的に聞いて運営に活かすことは非常に重要なことです。
V字回復の要因ともなった、園内での大規模なイベントはこの時期に園内であちこち実施された小さなイベントが基になっています。その意味で顧客の声を聞いて、そこから策を建てることはこの時期できていました。しかし顧客を満足するレベルまで規模を広げることができなかったと言えます。
“苦しい、客が来ない”こうしたときに最初に起案されるのが料金の割引です。ひどい場合には無料招待となります。しかし値引き施策は顧客にとっては麻薬のようなもので、一度始めると同じ額では次に来ないという中毒症状を引き起こす。割り引くことによって得られるものがないのでは、施設にとっては大きな痛手を負うことになります。
USJが上手だったのは、年間パスポートを利用して「個人属性情報」と引き換えに割引を認めるという手法を採用したことでした。年間パスポートの利用率が急激に増加することで施設の入場料収入は大幅に減少したでしょう。しかしその代りに「顧客動向、顧客属性」というツールを手にすることができました。大阪商人の真骨頂“転んでもただは起きぬ”を地で行ったということになりました。
そしてこの情報を扱える人が登場することで、USJは劇的なV字回復を成し遂げていきます。
次回第四回は「V字回復の始まりにUSJが打った次の一手」をお送りします。
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