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【楠木建の仕事哲学】「絶対悲観主義」こそ簡単で頑丈な仕事の構えである

楠木建の「経営知になる考え方」

あらゆる仕事に「お客」が存在する以上、持つべき哲学

 仕事は趣味とは異なる。趣味でないものが仕事、仕事でないものが趣味。趣味は徹頭徹尾自分のためにやることだ。自分が楽しければそれでいい。一方の仕事は誰かのためにすることだ。自分以外の他者に何らかの価値を提供できなければ仕事とは言えない。

 したがって、あらゆる仕事には「お客」が存在する。お客はコントロールできない。大会社の社長でもお客に自社の製品やサービスを無理やり買わせることはできない。仕事は定義からしてこちらの思い通りにならないものだ。事後的な成果や成功は、コントロールできない。しかし事前の構えは自分で自由に選択できる。仕事が何らかの哲学を必要とするゆえんだ。

 仕事である以上、絶対に自分の思いどおりにはならないと僕は割り切っている。「世の中は甘くない」「物事は自分に都合のいいようにはならない」、もっと言えば「うまくいくことなんてひとつもない」という前提で仕事に臨む――つまり、絶対悲観主義だ。

 何も「自分に厳しい」ということではない。絶対に成功しなければならないという呪縛から自分を解放する。厳しい成果基準を自らに課さない。むしろ僕のように自分に対して甘い人ほど、絶対悲観主義は有効にして有用だと思う。

「絶対悲観主義」は簡単で頑丈

 絶対悲観主義にはいくつもの利点がある。第1に、実行がきわめてシンプルで簡単だということ。やるべきことは、事前の期待のツマミを思い切り悲観方向に回しておくだけ。ここぞというときはツマミを可動領域いっぱいまでを思い切り悲観に振っておく。万が一うまくいったら、ものすごく嬉しい。だいたいは失敗するのだが、端からうまくいかないと思っているので、心安らかに敗北を受け止めることができる。

 第2の利点は、悲観から楽観が生まれるという逆説にある。絶対悲観主義はリスク耐性が高い。リスクに対してオープンに構えることができる。起業家志向の若者にアドバイスを求められることがある。自分で起業したいのだけれど、やはりリスクが気になる。どうしたものか――この手の質問を受けたとき、僕は「何の心配もありません。絶対にうまくいかないから」と言うことにしている。必ずといっていいほどイヤな顔をされるが、現実はそういうものだと思う。

 能力に自信がある人ほどプライドが高い。そういう人は失敗したときに大いにへこむ。プライドは仕事の邪魔でしかない。傷つくのが嫌で怖いから身動きがとれなくなる。動くときにも何とか失敗を避けようとするので、ヘンに緻密な計画を立てたりする。もちろん計画通りにいくわけはないので、ますます疲弊するという悪循環に陥る。

真に謙虚になれば、自分固有の能力や才能を見つけられる

 第3に、絶対悲観主義の最も重要な利点として、すぐにではなくても、10年ほどやっているうちに自分に固有の能力なり才能の在処がはっきりとしてくる。絶対悲観主義の構えで仕事をしていても、事前の期待が良い方向に裏切られ、ときどきうまくいくことがある。このときにやたらと嬉しくなるのが絶対悲観主義のイイところなのだが、そうした望外の喜びがたまに連続して起こることがある。そこに自分に固有の才能が見え隠れしている。

 絶対悲観主義者は「○○が上手ですね」「××が得意ですね」と人に言われても真に受けない。謙虚なのではなし。自分の能力を軽々しく信用していないからだ。それでも、そういう評価を複数の人から繰り返しもらい続けると、悲観の壁を突き破って、ようやく楽観が入ってくる。これは思い込みではなく、本物の楽観だ。

 仕事において自信はとても大切なものだ。自信が好循環を生み出す。ただし、「あれができます」「これができます」と言っているうちはまだまだ。悲観を裏切る成功が続いて、ようやく自信が持てるようになる。これは独りよがりの思い込みではなく、地に足の着いた自信となる。

 こうした僕なりの仕事や仕事生活についての構えについて書いた本、『絶対悲観主義』(講談社+α新書)を先日上梓した。お読みいただければ幸いです。

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