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マーケティング

第4話 V字回復の始まりにUSJが打った次の一手

大復活&快進撃!ユニバーサルスタジオジャパンの成功要因とは

1.ハリーポッターオープンまでの経緯
 2010年にV字回復のキーマン「森岡毅」氏がUSJに入社しました。
 ここに至り、USJは大きく方向転換をします。それまでUSJは20代を刺激するようなイベントやアトラクションを狙っていました。しかし、TDLにしても他の遊園地にしても、顧客属性の中心をなすのは年齢層30歳代、そして子供連れの家族が多い。特に30代の家族の場合には子供は小学生以下の場合が多いことがデータから分かります。
 特に、地方都市の遊園地の場合には、こうした傾向が顕著になります。
 

●年齢別利用者数とグループ属性別の利用者数比率の例


 そこで登場したのが、「ユニバーサルワンダーランド」。子供向けのアトラクションを一カ所に集中させ、ハローキティ、セサミストリートと言ったキャラクターを当て込み、小さな子供を連れた家族が楽しめるような施設を作りました。
 一方で、これまで追いかけて来た20代を中心とした層には、イベントを中心とした訴求により集客をしています。そして、これまであまり重視されなかった「ハロウィン」という時期にイベントを打ちます。園内全体を夜間ホラーハウスにしてしまう。など既存のコンテンツを大規模にしかけることで、若者に共鳴する「リアル」な施設を展開しました。

 また、既存のコースター「ハリウッドドリームライド」の車両を改造し、全線後ろ向きで走る「バックドロップ」という新コースターを誕生させました。
 実は、後ろ向きに走るコースターはすでに存在します。スペースワールドには「ブギウギスペースコースター」というものがある。ライドの半分が後ろ向きというコースターです。
 しかし、全車両が後ろ向きという施設は存在していなかったため、実質日本最初の後ろ向きコースターという宣伝文句はUSJに行きたくなる動機づけとしてはこれ以上のものはありませんでした。

 こうして大きな追加投資を行わず、USJはV字軌道に入り始めました。“また行きたくなる”気持ちにさせる施設になってきました。
 そして2014年に満を持して「ハリーポッター」のエリアをオープンさせることになる。世界で2番目。日本ではもちろん最初。日本でも圧倒的な人気を誇るコンテンツを圧倒的なリアルさで導入したことにより、全国から入場者が来るような施設になりました。
 「子供も安心して遊べる」、「今まで体験したことのないようなコンテンツ」、「映画やテレビ画面でしか見たことがなかったものが“リアル”に体験できる」ゲストにとっては来場する動機としては十分でした。
 ここまでの道のりはまさに、塁上にランナーを埋め尽くしてからホームランバッターを登場させて、予定通りホームランを打つ。野球でいえば理想的な攻撃でした。

2.V字回復を支えたもの
 全てのメディアは森岡毅氏がV字回復の立役者と報じているようですが、彼だけでこの奇跡のような事態を起こしえたとは思えません。どんなに優秀なマーケッターがいても分析するデータがなければ解析のしようがありません。その意味でUSJは2005年頃より積極的にとっていたアンケートなどの内部データがかなり正確であったと考えられます。
 元のデータが詳細で正確であるからこそ、正しい要因の分析が可能であり、施策が当たります。また、ご本人著書の中で「かなりの抵抗は受けた」と回顧しているところなどから、V字回復させるにあたっての業務改善は非常に苦労があったことと思います。

 集客施設の運営者というのは、施設の詳細なデータから導かれた結果よりも、現場での自分たちのカンを重視する人が多いのは事実です。特に、中小企業では経営者の経験に基づいた判断が優先されます。また現場の責任者は、改善の過程でコストを節減することを非常に嫌う人が多い。こうした人を納得させるためには、一定期間先の予測が正確にできることが重要になります。予測して実測してその誤差が小さければ小さいほど現場は認めざるを得なくなるからです。

 予測が不正確(もしくはない)な施設は、ほとんどの場合予算管理も雑になりがちです。ひどい場合には予算は作った後、実行状態が全く検証されずにその期を過ごしてしまう場合もあります。予算を管理するためには作成時に精査することは重要なのはもちろんですが、それが実行される段階で予算通りに進んでいるのかを日単位で確認できることが最重要です。

 その意味でUSJは森岡氏という才能があったことは幸いでした。彼の登場により入場者の予測精度は飛躍的に向上し誤差は5%以内になりました。これにより飲食部門での廃棄ロスなどが大きく減少し、コスト節減に大きく貢献することになりました。

 分析や解析を行うもとになる詳細なデータ。それに基づく精密な予測。そして設計通りに業務を進めて赤字を生み出さない運営努力。これがなければUSJは入場者だけは増えたものの、収益的には赤字のままであったかもしれません。

1)ここから学べること
 戦略を成功させるためには優秀な参謀が必要ですが、同時に参謀の指示のもとに正確に動ける部隊が必要です。集客施設全体の問題ともいえますが、部隊に所属する兵隊(USJでいえば現場担当者)が参謀の思ったように動いてくれない場合が多い。「事件は会議室で起こっているのではない、現場で起こっている」という映画の名セリフにあるように、基本現場担当者は現場での判断を重視します。しかし、根拠も理論もなく動いてしまってはうまくいかない場合が多い。

 この時期のUSJは絶対的な参謀役が存在しているのであるから、この人の言うことを信じて行動することに徹したことが成功の要因と言えます。管理部門と現場部門が予測数値の精度アップなど現場データで信頼の絆を構築できたことがV字回復を軌道に乗せられた理由と言えます。

 信じてもらえる精度で数値を算出する管理部門と、精度の高い数値を基に論理的な運営を行う現場部門。この連携がなければどんなにいいマーケッターを連れてきて分析を行ってもいい結果は出ないと断言します。

 中小企業では、参謀役をヘッドハントするよりも、参謀を経験したマーケッターに教えを乞い、社内人材であれば取締役クラス、もしくは社長自らが実践経験を積むことが重要である。

 教えを乞う、経験豊かな参謀役が必要な方はご一報いただければ、紹介します。

 最終回は「現在のUSJが成功し続ける要因」をお送りします。

第3話 低迷期のUSJの集客施策前のページ

第5話 現在のUSJが成功し続ける要因次のページ

関連記事

  1. 第5話 現在のUSJが成功し続ける要因

  2. 第3話 低迷期のUSJの集客施策

  3. 第2話 USJの不幸と失敗

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