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マネジメント

AI投資ブームはどこへ向かう?ネットバブルから「GBF祭り」の結末を考察する

楠木建の「経営知になる考え方」

 この数年、AI関連企業への投資が過熱状況にあります。この後どうなるのか、誰も正確な予測はできません。しかし、経済社会はこの手の経験を何度も繰り返してきました。だからこそ近過去の事実とその背後にある論理を検証してみるのが有用だというのが僕の考えです。

ネットバブルを熱狂させた「Get Big Fast」

 1999年当時、投資家と企業家の関心は利益ではなく「.com」という接尾辞にありました。彼らはインターネットが一世代に一度の機会を象徴していると信じていました。米国IPOの80%がインターネット関連企業でした。戦略はひたすらGBF(Get Big Fast)。利益は後からついてくる。大きな損失を出しながら高い評価額をつける新興企業が続出しました。

 インターネットの事業機会が魅力的に映るほど、参入するスタートアップは増えます。その結果競争が激しくなる。参入したとしても、結局は激しい競争の中で顧客に選ばれて、カネを払ってもらわないことには事業はどうにもなりません。

熱狂のあとに起きたドミノ倒し

 GBFの破綻はまずB2Cの領域から始まりました。その中でもとりわけ派手な爆死だったのが、僕が『ストーリーとしての競争戦略』(2010)でも取り上げたWebvan(オンライン食料品配達)です。Pets.comやeToys.comなど多くのB2Cスタートアップが次々に破産を宣告し、事業を閉鎖しました。

 B2Cスタートアップに技術や事業インフラを提供していたエンタープライズ向け企業は、販売サイクルが長く、顧客の定着率が高い。ドミノ倒しがB2B企業に到達するには少し長い時間がかかりました。それでも顧客(B2Cスタートアップ)が倒れてしまえば、彼らの商売も立ち行きません。

 例えば、サン・マイクロシステムズ。B2Cスタートアップの原動力となったB2B企業でした。2000年のピーク時、サンの時価総額は2050億ドルに達し、当時のゼネラル・エレクトリック(GE)とほぼ同等にまで拡大しました。インターネット関連の顧客企業が次々と破産していくにつれ、そのビジネスは崩壊し、加速度的に赤字に陥ります。ピークから大底までに、同社は時価総額の96%を失い、最終的には2009年にオラクルに74億ドルで買収されました。

 インターネットのように基盤的な技術が登場してきたときにGBF競争の過熱が起こるのは必然です。だから何回も同じことが繰り返し起きます。これは必ずしも悪いことではありません。GBF祭りが一定期間続いたからこそ、技術開発が進み、インターネットが普及しました。アマゾンやグーグルなど、ごく一部ではありますが、その後巨大企業に成長した成功例もあります。今回のAI投資の過熱でも、だいたい従前と同じ成り行きになると僕は考えています。

AI業界でも始まった「GBF競争」

 現在のところ、最先端のAIを開発する企業(の経営者)とそうした企業の株主が新しい時代の支配者で、非AI関連の企業や一般の生活者は被支配者の立場にあるという構図ができあがっています。しかし、実際はむしろ逆だというのが僕の考えです。

 なぜかというと、これまでGBF一本やりだったAIのスタートアップは猛烈な競争にさらされていくからです。最先端を行く企業ほどGBF投資は大きく、競争の中で収益を出すのが難しくなる。それにつき合っている投資家はとんでもないリスクを抱えています。

 OpenAIは2025年に210億ドルの損失を出したと伝えられています。経営陣の大量離脱を招き、IPOを2027年まで延期することを検討しているという報道もあります。このままでは商売は持続不可能な状況です。開発と広告のコストがかさみ、有料会員がChatGPTに1ドル費やすごとに、OpenAIはほぼ3ドルを費やしています。

 広告事業はOpenAIにとって新たな収入源になる可能性もあります。しかし、ここでも熾烈な競争があります。OpenAIは2030年までに1000億ドルの広告収入を予測していますが、同社の広告ビジネスは予測を90%下回るペースで推移しています。

 いまのところ、AIの最大のユースケースはコーディングです。The Economistによると、企業によるAIへの支出は2025年から2026年にかけて13倍に増加しました。しかし、ここにきてAI企業の売上を支える企業も、費用対効果を冷静に見るようになってきました。

最大の勝者は『普通の人々』

 GBF祭りの渦中では、バリュエーション(評価額)とバリュー(価値)が混同されがちです。その理由は時間軸上でのギャップにあります。バリューは長い時間軸で生み出されていく。これに対して、バリュエーションに参加する人々は短期思考に陥りがちです。

 AIはもちろん巨大な価値を生み出します。しかし、どれほど大きなインパクトを持つ技術であっても、企業活動の根本を規定する原理は市場競争です。競争が激しいほどAIの技術進歩は実現され、ユーザが払うコストは低下し、利便性は増します。これは間違いない。最大の勝者はそのテクノロジーを現実的な効用を見極めて使用する「普通の人々」です。

 しかし、その過程で多くのAI供給業者が競争に耐えられず、ドミノ倒し的なGBF破綻の憂き目を見るものまた間違いない。最大の敗者は株主です。

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