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マネジメント

経験ゼロの分野でも成果を出せる社長は、まず何をしているのか

楠木建の「経営知になる考え方」

リーダーの成長を決めるのは「学び方」だった

 デヴィッド・ノヴァク『Learning』という本を読んだ。リーダーはどのように学び、成長するのか――本書は、学習がリーダーシップの核心であると考え、優れたリーダーがどのように過去の経験、他者との対話、そして実践を通じて自らを高めているのかを、具体的な事例を交えながら解説し、リーダーとして成功するための学習プロセスを示している。

 著者は、経営者はもちろん、スポーツ選手、政治家など、さまざまな分野のリーダーが実践した学習を分析し、それらの共通点を探求している。本書の多くのページは著者自身の経験とそこから得た学びの事例に割かれている。僕の印象に残った著者のエピソードを紹介したい。

経験ゼロの分野で成果を出すために、最初にやったこと

 ペプシコの飲料部門でマーケティング責任者を務めていた著者は、最高執行責任者に抜擢される。著者にはそれまでオペレーションの経験がまったくなかったので、最高執行責任者の仕事はリスクの高い挑戦だった。マーケティング責任者だった期間は、工場や倉庫のようなオペレーションの現場を訪問することはほとんどなかった。訪問したとして、ツアーガイドやマネージャーの説明を礼儀正しく聞き、さも相手の話をよく理解しているようにうなずくだけだった。

 成果を出すためにはオペレーション業務における知識のギャップを埋めなければならない。まずギャップが何かを明らかにし次に専門家を見つけできるだけ多く質問をする――これが著者の学習戦略だ。

答えは社内にある

 専門家といっても、その分野の第一人者である必要はない。「ある分野について詳しい人」は身の回りにたくさんいる。著者が話をしたのは、日々製品を作り、顧客と接している従業員だ。朝の5時に起きて頻繁に事業所を訪れ、出発前のルート営業の担当者に質問をして、彼らの答えを注意深く聞く。彼らは自分が知らない事を知っていて、たいていは喜んで質問に答えてくれる。

 学習にとって重要な情報は、会社の幹部よりも現場の最前線にいる従業員たちが持っている。彼らは幹部が知らないことを知っている。重大な問題点を指摘し、本社の人間が考えた「最新かつ最高のアイデア」が現場でうまくいかない理由を教えてくれる。どんな会社にもこの意味での専門家がたくさんいるはずだ。どのような疑問でも、答えはたいてい社内の誰かが知っている、というのが著者の見解だ。

 人の話を聞かなければ学習はできない。会社の歴史を知りたければ、勤続25年のベテランに話を聞く。顧客の考えを知りたければ、カスタマーサービスに相談する。荷物を時間通りに出荷できないのなら、ドライバーと一緒に配達してみる。社外にも目を向けるが、課題解決のためにコンサルタントを雇うことはほとんどない。その代わりに経験豊富な実務家やその分野で評判の高い本の著者に話を聞く。特定の課題を解決するために専門家を招くときも、彼らに定番のスピーチを依頼することはない。その代わりにできるだけ多くのリーダーを会議に参加させ、集中的な質疑応答を行う。こうした中で具体的な方法や手法を学んでいく。学習は現場にこそある――これが著者の信念だ。

「やり方」より「姿勢」が成果を生む

 その真骨頂がペプシのある工場の業績改善のエピソードだ。その工場はペプシの工場の中で最も業績が悪く、1ケースあたりの収益は最も低かった。だからこそ経営課題を学ぶのに最適な場所だと著者は考えた。

 現場を訪問すると、すぐに工場の責任者たちに問題があることがわかった。彼らは不満ばかり口にし、自分以外の誰かを非難した。誰も本当の問題を解決しようとしていなかった。著者が販売チームと製造チームに会い、「何がうまくいっていて、何を改善する必要があるか」と率直に尋ねたところ、彼らの答えは「何もうまくいっていなくて、すべてを改善する必要がある」だった。

 現場のリーダーである彼らは会社の幹部に意見を聞かれることに慣れていなかった。しかし、著者が詳しく説明するように促してから口を閉ざすと、彼らは2時間ひたすらしゃべり続けた。著者は話に割り込みたい衝動を抑えて、彼らの話を聞き続けた。

 なぜなら彼らの不満の下には、たくさんのよいアイデアがあったからだ。彼らが話し、私が聞くほど、アイデアが次々と浮かび上がってきた。

 最後に、工場のリーダーの1人が言った。「今までの話を聞いて、あなたはこの工場をどんなふうに良くしてくれるのですか?

 「何もするつもりはありません」と私は言った。彼らは驚いて私を見た。

 「あなたたちは誰よりも問題をよく知っています。だから、問題を解決する最善策も知っているはずです」と私は言い、それまで意図的に話し合いのメンバーに含めていなかった工場長を呼んだ。

 私は全員に向かって、「みんなで一緒に改善に取り組んできてください。半年後にまたここに来て、進捗を確認します。その時、今この場にいる皆さん全員ともう一度会いましょう」と言った。

 半年後、私は再び工場を訪れた。

 工場のリーダーたちは玄関のドアの前に出て、私を歓迎してくれた。自分たちが取り組んできた改善、とくにトラックの積み込みプロセスの効率化のために実施した変更を、早く伝えたかったからだろう。

 批判的思考力を高めるための効果的な方法は、できる限り一次情報を得ることにあるということがよくわかる。自分で直接情報に触れなければ、間接的な情報にまどわされてしまう。その結果、現実が見えにくくなる。相手を信頼し、現場・現実・現物を直視することがリーダーの学習の基本動作であることを如実に物語るエピソードだ。

 

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