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マネジメント

ニデック不正会計に見る、名経営者が陥る「成功モデルの限界」

楠木建の「経営知になる考え方」

ニデック不正会計は、どこから始まったのか

 2024年11月、ニデックの中国子会社(NTMZ)に新任した日本人総経理が特別協力金の不適切処理や多数の「負の遺産」を認識し、親会社(NTMC)の内部監査部門等に報告した――これがニデックの不正会計事案が明るみになる発端でした。

 その後、NTMCの調査を経て、2025年7月にニデック本社の監査等委員会へ不適切会計の疑いが報告されました。これを受けた外部専門家調査の過程で、グループ全社的に「負の遺産」が滞留し、経営陣が恣意的に処理時期を検討していた疑いを示す資料が発見されたことから、ニデックは9月3日の取締役会で「第三者委員会」の設置を決定。調査の結果、長年にわたり複数の拠点で、棚卸資産の評価損回避や固定資産の減損回避などの多数の会計不正が繰り返されていたことが判明。

現場に積み上がった「負の遺産」

 各現場では、業績目標を達成するために減損等を回避した不良資産が「負の遺産」として滞留していた。会社は損失を自部門の利益で賄う「セルフファンディング」を求めたが、それが過度なプレッシャーとなり、結果的に損失処理の先送りや更なる不正を誘発することにつながった。永守氏直属の特定従業員による「特命監査」が秘密裏に行われており、その結果は社内の内部監査部門や監査法人には共有されず、直ちに是正すべき不正が極秘裏に「計画的処理」に回されるという組織的問題を抱えていたことが報告書で明らかにされています。

 永守氏の会計不正への直接の指示は認定されませんでしたが、報告書は「不正処理の容認」「過度な業績プレッシャーの作出」「負の遺産の一括処理の却下」などから「最も重い責任を負うべきは永守氏」であると厳しく評価しています。

 会計不正による減損影響は1,397億円に達し、追加減損の可能性がある資産は約2,500億円規模ともいわれています。だとすれば、過去の大規模会計不正案件であるオリンパス事案や東芝事案にも匹敵する水準です。

問題の本質は、現場の不正だけではない

 なぜこのようなことになってしまったのか。仕事でしばしばご一緒している弁護士の宮下和昌さん(IGPI弁護士法人代表弁護士、経営共創基盤ジェネラル・カウンセル)がこの事案を分析し、真因を考察しています。

 本件は会計不正に手を染めた現場の役職員の遵法意識の欠如に責任を帰すべき問題ではない、と宮下さんは結論しています。人事権をはじめとする永守氏の絶対的な権限を起点とし、非現実的な業績目標の達成を求める苛烈ともいえる強いプレッシャーが経営幹部を通じて組織全体へと連鎖した結果としての不正会計だった。この絶対的な権力を前に、本来ブレーキ役となるべき経理部門・内部監査部門・社外役員に至るまで全社的な牽制機能の不全に陥ったことで、「不正のトライアングル」が成立したことに原因がある――。

成功モデルは、なぜ限界を迎えたのか

 だとしたら、なぜ永守氏の絶対性が暴走したのか。宮下さんは次の2点に「真因」を求めています。第1に、急拡大した企業集団に対して永守氏の経営管理能力が追いつかなかったこと。第2に、過去の成功モデルに依拠した戦略が行き詰まり強い焦りを生んだこと。M&Aで複雑化したグループを従来型のハンズオン経営で統制することには限界があり、その歪みが業績プレッシャー、牽制機能不全、組織文化の歪みを通じて会計不正を誘発した――宮下さんの指摘する真因はいずれも納得のいくものです。

 あるときまでの永守氏はとてつもなく優れた経営者で、その経営手腕にはほれぼれするものがありました。平成を代表する経営者といってよい。僕も仕事で永守さんにお目にかかる機会をたびたび得て、その都度多くを学んできました。このような事態になっても、往時の永守さんの経営者としての実績には揺るがないものがあります。

 ずいぶん前の話ですが、2014年に『「好き嫌い」と経営』という本を出版しました。14人の経営者の方々に、その人の好き嫌いだけをお聞きして対話するという内容です。経営スタイルの核心は経営者の好き嫌いにある。好き嫌い(だけ)を知るのが、その人の経営や意思決定を知る早道なのではないか――という発想でつくった本です。イのいちばんに対談相手をお願いしたのは永守さんでした。この永守節全開の対談は僕にとって痺れる内容で、いま読んでも永守さんの経営の本質をつかんでいたと思います。

 それにしても、です。不正会計の真因が宮下さんの考察にある通りだとして、僕の関心は「いつからこうなってしまったのか」にあります。これについてはまた次回。

 

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