▼牟田太陽の「後継社長の実践経営学」CD版・デジタル版
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- 繁栄への着眼点 牟田太陽
- 第7回 限界に挑む、限界を知る、限界を広げる
スポーツの世界は厳しい。結果が全て数字で出てくるからだ。
得点であったり、タイムであったり、距離であったり、高さであったり、深さであったり様々だ。フィギュアスケートだって、水泳の飛び込みだって主観的に採点されるとはいえ難易度など数字でガイドラインが決められている。
学生時代でも、社会人になってでも特定のスポーツに真剣に打ち込んだ人であるならわかるはずだ。限界に挑めば挑むほど、数字で自分のポジションが冷徹に出てくる。自分は全てを出し切った。この一年、今日のために色んなモノを我慢して頑張ってきた。しかし、上には上がいる。見えてきたと思った頂がまた霞む。
私も学生時代にアルペンスキーをやっていた。寝ても覚めてもスキーのことばかりを考えていた。オフシーズンの多いスキーという競技は、特異な競技である。夏にどれだけイメージを掴めるかで来シーズンの出来が決まると言っていい。
インラインスケートでイメージを掴んだり、真夏に万年雪の上で何日も練習をしたり徹底的に数をこなした。
当時はバブルの余波もまだあり、SSAWS(ザウス)という人工スキー場が湾岸にあった。私も何度か練習にいったが貧乏学生には高く、そうそう通えるものでもなかった。
そこまでして臨んだシーズンだった。
学生の大会とはいえ、高速競技であるダウンヒルでは平均時速80km/h、最高速は100km/h以上出る。風圧で息も吸えないような速さだ。私はその競技で300数十人中、30位だった。その結果が、私の最高位だった。
人に言えば、「すごいじゃないですか」などと言われるが、やっている本人からしてみれば、「まだ上に29人もいるのか」というのが感想だった。
いま一度言うが、限界に挑めば挑むほど、数字で自分のポジションが冷徹に出てくる。そこで自分の限界を知る。重要なのは、限界を広げること。「そこからどうするか」だ。
上位29人に出来て、自分に出来なかったものは何なのか。それを徹底的に調べて次へと繋げていく。これが限界を広げていくということだ。
長々とスポーツの話をしてきたが、これはスポーツの話だけではなく経営にも通じる。
事業でも商品でも同じことではないか。事業も商品も、同じように成長曲線を描く。成長期から成熟期へ。成熟期から飽和状態を経て、衰退期へ向かっていく。成長期から成熟期を「限界に挑む」期間とするならば、衰退期の前段階である飽和状態、ここが「限界を知る」期間だ。そこから社長としてどういう手を打つのか。どう限界を広げるのか、社長としての手腕が問われるところだ。
打つ手は二つしかない。
一つは現業の深堀である。クオリティーを進化させたり、エリアを広げたり、対象年齢を広げたり、他業界とのコラボレーションをしたりすることだ。
もう一つは事業の多角化である。FCに加盟したり、代理店になったり、他業界とコラボレーションをしたり、M&Aしたりすることだ。これにより自社の限界を広げていくのだ。
多角化を考えるにあたり、躊躇してなかなか一歩が踏み出せない社長が多い。
しかし、社長は、どうか自分自身の閃きに自信を持ってほしい。
試算表にも決算書にも載っていない未来の数字を掴めるかどうか。ここに新事業の成功がかかっている。新事業単体の数字だけではなく、新事業を始めることによって、それが本業にどのような好循環をもたらすのか。それが未来の数字であり、社長にしか掴めない商売の閃き、センスなのだ。
「限界を広げる」自分の限界を、自分自身で決めてはいけない。
きっとまだその先に行けるはずだ。
※本コラムは2019年8月の繁栄への着眼点を掲載したものです。
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