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【楠木建のAI考】AIやロボットが決して代替できない仕事とは何か

楠木建の「経営知になる考え方」

AIの本質——自動化と省力化

 AIの本質は自動化にして省力化だ。すなわち「そのことを自分ではやらない」。プロセスをすっ飛ばして他人任せにし(AIは人ではないのだが)、結果だけを手に入れる。AIを使うとはそういうことだ。これまで人間が自力でやってきたことの外部化といってもいい。

 AIに限らず、昔からテクノロジーの本質は外部化にある。蒸気機関というテクノロジーは産業革命をもたらした。蒸気機関を使えば、これまで人間が持ち上げられないほど重たいものをやすやすと持ち上げてくれる。モノを持ち上げる能力の外部化だ。蒸気機関車を使えば、人間や馬よりもはるかに速いスピードで移動できる。歩く・走るという人間がやってきたことが技術に外部化されている。その結果、人間ができないことができるようになる。ようするに、技術進歩だ。

「パフォーマンスの向上」さえ達成できれば良い

 外部化された結果、それまで技術なしに人間がやってきたことよりもパフォーマンスが上がる――ここに技術進歩の動機と目的がある。パフォーマンスの向上がなければ、人間がやればいいだけの話。技術は必要ない。

 AIは人間を凌駕するか、という議論が盛んになっているが、技術進歩の本質からして、AIが人間を凌駕するのは自明だ。今に始まった話ではない。新幹線は人間が走るのよりも速い。飛行機は空を飛べるが、人間は空を飛べない。インターネットが仕事や生活に入り込んで久しい。グーグルの検索は人間ができない(やろうと思うと異様に時間がかかる)ことを0.1秒でやってくれる。だからといって、新幹線や飛行機やグーグル検索を恐れる人はいない。便利な手段として使っているだけだ。

 AIにしても、この基本的な図式は変わらない。ある種の領域では、人間をはるかに凌駕するテクノロジーではあるが、人間に完全に代替したり、人間社会の敵になるわけではない。いつの時代も、道具は使いようだ。

 人間がやってきたことの外部化による自動化・省力化は便利なものだ。その本質からして、しかし、外部化が価値をもつのはその活動が利用者にとって楽しくない(やりたくない・できない)ということが前提になる。

「悦び」は外部化しない

 ごく日常的な例で考えてみよう。僕は税金を払うための申告作業を税理士の先生に任せている。なぜか。税務申告が単に面倒なだけでなく、きちんとやる知識や技能もない。そもそも僕にとってはまるで楽しくない。だから税理士の先生にお任せする。

 ファッション・コーディネーター(もしくはスタイリスト)という仕事がある。TPOに合わせてその人にあった服装を提案してくれる。こういう人を雇うのは、おそらくファッションに興味がない人だけだろう。なぜならば、ファッションに興味がある人は、何が自分に合うのか、自分のスキな服が何であって、それがどこにあるのかを探索すること自体が好きだからだ。この楽しいプロセスを人任せにしてしまうのは当人にとってタダの損失。カネを払ってでも勘弁してもらいたいと思うだろう。

 私的な例でいうと、文章書き。核となるアイデアだけ入力すれば、AIに書いてもらうこともできるようになるのだろう。ただし、である。書くプロセスこそを悦びとする僕にとってはいい迷惑だ。絶対にAIに外部化したくない。

 ゲラの修正は文章をゼロから生成するよりもずっとAIが得意とする作業だろう。しかし、僕にとってはこれほど面白い仕事もない。ゲラを前にしてああでもないこうでもないと自分の文章を推敲し、赤ペンで書き込む――三度の飯よりこれがスキ。心行くまでゲラ直しに集中したいときなど、福岡に行くのに飛行機を使わずわざわざ新幹線に乗って行くほどだ。この至福のプロセスをAIに奪われてしまうと、何のために文章を書いているのかわからなくなる。

 AIは便利なもので、生産性を向上させるのは間違いない。ただし、生産性は分数だ。分母(投入時間や労力)は飛躍的に小さくなる。その一方で、分子にも影響が出る。AIでも問題がない文章は書けるだろう。しかし、「問題がない」は「優れている」を意味しない。本当に優れた文章はプロセスそれ自体を無上の愉しみとする人から出てくる。これは間違いない。

 プロセス価値の喪失――今後のAIの応用における重要な論点だというのが僕の考えだ。

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