「今期は大口の受注が相次ぎ、過去最高の売上を記録しそうだーー」
多くの経営者にとって、売上の拡大や業績の伸長は何より喜ばしい成果です。試算表を眺めれば、利益もしっかりと残っています。ところが、経営の現場において最も恐ろしく、かつ頻繁に起きる事故の一つが、「業績は絶好調なのに、会社の通帳から突然お金が消えて支払いができなくなる」という黒字倒産の危機です。
なぜ、儲かっているはずの会社が資金難に陥るのか。その原因は、事業拡大に伴って必ず発生する「支払先行と入金遅延(キャッシュフローのタイムラグ)」にあります。
具体例:成長局面で資金が底をつきかけたA社のケース
ある年商3億円規模の中小企業A社(建設、製造業)の事例を見てみましょう。A社は大型の建設案件を立て続けに受注し、売上が前年比で1.5倍に跳ね上がる好機を迎えました。
先行するキャッシュアウト(仕入・外注・人件費):
受注規模が大きくなったのですが、材料の仕入代金や外注費、現場の増員に伴う人件費の支払いが急増します。これらは着工や納品前の1〜2カ月目に、毎月手元の現預金から確実に引き落とされていきます。
特に、この建設会社では、一人親方が外注先に多かったため外注費の翌月支払いが急増、売上代金の回収がその後になりました。しかも、悪いことに急な売上激増であり、前月までの業績が悪かったため手元資金が少なかったということも悪材料になりました。
遅れてやってくるキャッシュイン(売掛金の回収):
無事に工事が完了し、請求書を発行したものの、取引先との契約条件(回収サイト)は「月末締め・翌々月末払い」で、支払いに行き詰ってしまいます。
それでも、この会社の社長は、短期的な資金ショートだから取引銀行がなんとかしてくれるというあまい考えをもっていました。
ところが、メインバンクに短期資金の申し込みに行っても心よい返答は得られませんでした。
じつは、この会社、業績不振の期間が長くその補填資金を借りていて、それらも銀行の希望する条件での返済ができていなかったようなのです。結局、銀行からの新規融資は得られず、ぎりぎりの段階で何とか資金手当てをしたのでした。
この資金回収のタイムラグが、銀行による企業の信用度合の毀損と重なることで思ったような資金調達ができなくなり、最悪破綻に向かうこともあるのです。
「売上が伸びるほどお金が必要になる」という真実
多くの中小企業経営者が陥りがちな錯覚は、「売上を伸ばせば資金繰りは楽になるはずだ」という思い込みです。しかし、財務の現実原則は真逆です。「売上が伸びる局面こそ、会社は最も多くの現金を必要とする」のです。
この売上増加に伴って必要となる資金ギャップを、財務の世界では「増加運転資金」と呼びます。
そのため、銀行を味方につけ、信用を得る努力というのが普段から必要になるのです。
ここで重要なのは、銀行に対する早めの説明と、ふだんからの誠実な対応です。資金繰りが苦しくなってから慌てて駆け込み、「今月末の支払いが厳しいので、とにかくお金を貸してください」と頭を下げても、銀行員は「業績が悪化して資金ショートしそうなのではないか(赤字補填資金)」と警戒し、審査のハードルを一気に引き上げます。
銀行からスムーズに、好条件で資金を引き出すための実務ポイントは以下の2点です。
1.「前向きな増加運転資金」であることを数字で証明する
銀行にとって、赤字を埋めるための融資は最も貸したくない資金ですが、「売上増加に伴う一時的な立替資金(増加運転資金)」は、最も積極的に貸したい資金です。発注書や契約書を提示し、「売上が〇〇%伸びるため、回収までの〇カ月間に〇〇万円の立て替えが必要である」という計算式を整えて提示します。
2.回収までの「出口(返済原資)」を明記した資金繰り表を添える
「○月に取引先から〇〇万円が入金されるため、その売掛金をもって一括で返済(または期日約定返済)する」という出口のストーリーを、月次資金繰り表で示します。「いつ、どのお金で返ってくるか」が明確な案件ほど、銀行の社内稟議は通りやすいものです。
売上が増えている時こそ、キャッシュのタイムラグを疑う必要があります。通帳残高が減り始める前に、増加運転資金の打診をしておく。この時間軸を考えた早急な対応こそが 経営者にとって必要なものだと思います。















