ハローズは広島県を中心に中国、四国の瀬戸内商圏で展開する食品スーパーである。たかが食品スーパーと侮ることなかれ。我が国においては、食品卸売業が高度な機能を小売業に提供することで、超大型小売業が強みを発揮できず、日々の食材の購買市場では総合スーパーが衰退し、各地域に密着した食品スーパーが成長業態となっているのである。
その中にあって同社は、収益力と成長性で食品スーパーのベストスリーの1社となっている。規模でトップのヤオコーと2位のベルクはともに好環境の首都圏を地盤とするのに対して、同社は人口も減少傾向にある中国、四国地方を地盤としながらもそれらに劣らない利益成長を遂げている点で高評価できる会社である。しかも、コロナ下を経てむしろ、他の2社よりさらに業績は好調である。
ちなみに、2022年度の各社の営業収益対比の営業利益率は、同社の5.2%に対して、ベルクは4.5%、ヤオコーは4.6%である。なお、ヤオコーのみ3月決算であるため、現時点では実績が公表されていないため、この値は会社予想をベースとしている。
食品スーパーとしての同社の強さは、強固な店舗フォーマットの確立、24時間営業、部門別粗利コントロールなどである。加えて、それらを一つ一つ着実に実行していることに尽きる。今回はその中から特に、24時間営業に関して触れてみたい。まずは、単に営業時間を24時間にするだけであれば、場合によっては大いなる無駄に終わってしまう。
24時間営業を行い、しかも収益性を高めるためには24時間営業に対応するシステムが完全に出来上がっている必要がある。これには24時間に対応した店舗運営システム、物流システム、そして情報システムの確立が必要となる。
24時間営業自体は、様々な顧客ニーズに応えるという意味で、顧客にとっては便利なものである。それに対して、同社では24時間営業の効率的な店舗オペレーションシステムが完全に構築されている。店舗作業は、昼間の時間に商品加工、レジ業務、接客対応を重点的に行い、夜間に商品陳列、店舗清掃を行う。一方で、それらに加えて夜間は特に防犯体制も重要になる。
また、それらの店舗作業に合わせて、物流体制を構築する必要があることから、完全な自社運営の物流システムを構築している。また、本部センターの情報供給体制も24時間のフォローアップとなっている。
ちなみに、コンビニの24時間営業と比較すると、同社の場合には個々の社員の負担が軽いものとなっている。まず、作業自体が、コンビニが各人の作業種類が多く多能化が必要であるのに対して、同社では作業自体が単能化され、作業負担が小さくなっている。また、コンビニでは夜間のワンオペなどもあるが、同社では夜間の標準は店舗全体で18名の体制となっている。
また、警備体制もコンビニが機械警備だけであるのに対して、同社では機械警備+人的警備である。就労時間もコンビニが長めであるのに対して、同社は短時間も可能という具合に、心理的な負荷が小さくなっている。それゆえ、比較的にパート、アルバイトの雇用も容易である。特に田舎では夜間のパート、アルバイトの募集が少なく、逆に集めやすいものとなっている。
コスト面でも渋滞のない夜間配送で時間が短縮され、陳列作業なども顧客の邪魔にならずに行える。一方で、食品スーパーの場合、冷蔵庫はもともと24時間稼働であり、24時間営業にしても電気代には大きな差はない。照明はLED化で省エネが進んでいる。開店、閉店作業がない点も極めて効率的である。
また元来、スーパーのコストは固定費が多く、その固定費は24時間営業によってもほぼ変わらず、売上は増えるので、単位当たりコストも下がる。このようなことから、同社は売上高営業利益率も業界トップとなっている。
有賀の眼
かつては多くの業態で24時間営業を行っていたが、人手不足もあって、徐々に24時間営業をやめる業態が増えてきた。決定的になったのがコロナ禍により、外食産業における24時間営業が急速に姿を消した。ただし、コンビニエンスストアはこれまで同様24時間営業で、数から見れば圧倒的に多くなっている。
都会では総合スーパーでも24時間営業を行う企業もあるが、田舎で24時間営業を行っている点が同社のユニークさである。えっ、そんな場所でという意外感があろう。そもそもニーズがあるのかという点で、疑問を抱かれよう。しかし、このようにその中身を理解してみると、実は極めてまっとうな戦略であると理解できる。ある面、企業経営において参考になる例ではないかと思われる。