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故事成語に学ぶ(19) 唇亡ぶれば歯寒し

指導者たる者かくあるべし

    窮地の知恵こそ真の知恵
 中国の戦国時代、晋国の内乱で智伯・韓・魏の連合軍に対抗して晋陽城に追い詰められた趙の襄子(じょうし)のその後である。
 連合軍の水攻めに、万全の準備で三年持ちこたえた城も危うくなった。襄子は、策士の張孟談(ちょうもうだん)に弱音をもらす。
 「食料も軍費も底をつき、将兵たちも疲れ切っている。もはやこれまでじゃ。降伏するしかないが、智伯(ちはく)、韓氏、魏氏のうち、どの国に降伏するのがいいだろう」
 張は叱りとばした。「殿、窮地を持ちこたえられず、活路を見出せないのでは何のための知恵でしょう。降伏なんてとんでもない。私には知恵があります」。彼は包囲網を抜け出し、韓氏と魏氏の陣に向かった。
  
 相手の不安を見抜く
 実はこの戦いの前、智伯は韓氏、魏氏に対しても襄子に対してと同様に領地の割譲を求めていた。両氏ともに泣く泣く領地を譲って攻撃を避け、刃の方向を襄子に向けただけのこと。智伯は、戦いに勝てば、三人で趙の領土を三分しようと持ちかけていたが、野心家の智伯がその約束を守るとも思えない。趙が滅んだ後の二人の不安を張は見抜いていた。
 二人に対面して切り出す。
 「いま智伯は、お二人を率いて趙を攻めておいでです。まもなく趙は滅びるでしょう」。降伏の相談か、と二人はうなづいたが、張の次の言葉にぎくりとする。
 「昔から、〈唇がなくなれば、むき出しになった歯には寒さがしみわたる〉と申します」。趙が滅びれば、次にはあなた方が智伯に攻められ、滅びる番だ、と二人が抱える不安を煽ったのだ。二人は智伯への裏切りを密約した。
 
 利益追及ばかりでは身を滅ぼす
 城に戻った張の報告を聞いて襄子は跳び上がって喜んだが、「そんなことがあるだろうか」と一抹の不安もあった。しかし、韓と魏は密約を実行する。晋陽の街を水浸しにしていた河の堤防を切り、水を智伯の陣に流し込み、混乱する智伯軍を襲い壊滅させた。
 智伯は殺され、その領土は三分されて、智伯は天下の笑い者として後世に名を残すことになる。
 智謀を尽くして合従連衡で晋の再統一を手中にしたと思われた男の転落である。
 韓非子は、このエピソードの締めくくりにこう書いた。
 「貪欲で利益ばかりに目を向けていては、いずれ国を滅ぼし、自分の命も失うことになるのだ」
 戦国の国獲り合戦ばかりではない。生き馬の目を抜く企業社会においても同じこと。張孟談にあって智伯に欠けていたもの。それは人情を読み取る知恵のみならず、上司あるいはライバルに「この男に任せてみよう」と思わせる「信頼」の有無だったのだろう。
 
(書き手)宇惠一郎 ueichi@nifty.com
 
※参考文献
『中国の思想1 韓非子』西野広祥・市川宏訳 徳間書店
『戦国策』今度光男著 講談社学術文庫    

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