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マネジメント

国のかたち、組織のかたち(48) 政治と官僚組織(下)

指導者たる者かくあるべし

 政・官・業蜜月時代の終わり

 55年体制崩壊を伴う1990年代の政治の激動の影響は、政界だけにとどまらなかった。自民党一党が長年政権を独占することによる制度疲労が、一国の統治のあり方そのものに波紋を投げかけることになる。

 簡単にいうと、固定化した政治体制の中で、政治と省庁と業界がそれぞれの利害を共有することで、変革を拒む強固な体制ができあがってしまっていた。政・官・業の癒着構造だ。

 大蔵省が所管する予算の組み立てについてみるとわかりやすい。1970年から赤字国債の発行を封じ込め財政規律を守ることが大蔵省の至上命題となる。しかし、無駄な予算を封じ込めようとすると、自民党の族議員が関連業界の圧力を受けて予算獲得に動き、担当省庁を動かす。各省庁も霞ヶ関内での存在感を見せるためにも、族議員、業界の力を利用して予算確保に走る。詰まるところ、国家財政は首が回らなくなる。

 「政治とカネ」の問題から始まった政治改革の動きは、「行財政改革」へと切り込み始める。国の統治機構を効率的なものにするためには、霞ヶ関の官僚機構の改革が必須だと、政治家たちが気づく。とくに政権を担う自民党内の改革派が流れを決めた。それが、自民党を割った党内改革派が野党を引き込んで細川政権を誕生させた真の意味だ。

 首相の座についた細川護熙(ほそかわ・もりひろ)は就任当夜、政権の課題を示した。最大の眼目は行政改革で、内閣に首相をトップとする臨時行政改革本部を設け、一年以内に改革案をまとめることにした。

 政官の暗闘と大蔵省の解体

 細川政権は1年もたずに崩壊したが、彼が目指したのは、政治と官僚機構の力関係における政治優位の確立だった。首相の権限を強化すること。具体的には、予算編成権の内閣移管、中央省庁の再編成を目指した。

 この当時、日米は細川・クリントン政権の間で日米包括経済協議が難航していた。そのさなかに、クリントンは、ラジオインタビューで、日本の行政改革について、こんな見解を示している。

 「日本では今大きな戦いが進行中だ。何十年にもわたって政策を牛耳ってきた政府機関がある。貿易と財政の官庁は低い失業率と高い貯蓄率巨額の輸出をもたらしてきた。彼らはそれを誇りにしている。しかし、一方で、日本を公正で開放的な貿易を伴う近代国家にしたいと望む人々が日本にもいる。私は日本に圧力をかけることで、改革派の運動を支援する」

 クリントンが挙げた二つの官庁は、通産省と大蔵省であることは明らかだ。貿易交渉が難航する背景に、政権トップ同士の歩み寄りを阻む霞ヶ関官僚機構の抵抗を見てとったのだろう。外の目から見ても、彼らの力は政治を超えていた。

 細川政権による行政改革の志は、政権復帰後の自民党に引き継がれる。1998年(平成20年)に大蔵省は、金融監督権限を失い(金融庁の分離)、翌年には金融政策の立案権限も切り離され、2001年には、明治以来の大蔵省の看板が外されて財務省に鞍替えする。政治優位の完成である。

 内閣による人事権掌握と官僚のまた、忖度(そんたく)

 また、安倍政権時代の2014年には、国家公務員法の一部が改正されて、内閣官房に内閣人事局が設けられ省庁の審議官級以上の幹部人事の権限が首相官邸に移された。政治が人事を通じて官僚たちを統制する狙いだ。政治と官僚の力関係をめぐる抗争が行き着いた現在の姿ではあるが、政治の力が強くなりすぎるのも弊害がある。

 官僚人生で人事に不利にならないように、時の政権に配慮するあまり、忖度がまかり通り、官僚組織としての正しい判断が歪められることになりかねない。

 実際に許認可案件をめぐる官僚たちの政権への過度の配慮も垣間見える。

 官僚機構なしには政治は動かない。政治の決断なしには、優秀な官僚機構の政策立案も実現しない。政治と官僚、永遠の課題でもある。

(書き手)宇惠一郎 ueichi@nifty.com

 

※参考資料
『財務省と政治 「最強官庁」の虚像と実像』清水真人著 中公新書

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