menu

経営者のための最新情報

実務家・専門家
”声””文字”のコラムを毎週更新!

文字の大きさ

マネジメント

故事成語に学ぶ(20)鶏口となるも牛後となるなかれ

指導者たる者かくあるべし

   説得術は心理戦
 中国の紀元前4世紀、戦国時代後期になると、しのぎを削る七国の中で、西方の大国である秦が頭一つ飛び出し、残る韓、魏、趙、斉、燕、楚の六国は、生き残りに腐心していた。秦との付き合い方をめぐる外交のあり方が焦点となる。各国の間を多くの弁論家が、ああでもない、こうでもないと策をさずけて走り回った。外交コンサルタントである。

 その中で、秦を盟主と仰いで各国が臣下の礼をとって安定を図る「連衡」策が主流となる中で残る六国が同盟して秦の強圧に対抗する「合従」策を掲げて蘇秦(そしん)が活躍する。
 師について外交術を学んだ後、各国を流浪したが、だれにも相手にされない。故郷に戻ると、家族、親戚一同から「舌先三寸で遊んでばかり」と蔑まれた。一念発起した蘇秦は、部屋にこもり蔵書を読みあさる。そして一年、独自の弁論説得術を編み出す。人の不安を読み取り、その心理を利用して自らの術中にはめる、現代的にいうと心理学を応用しての誘導術だ。
 彼はこれを駆使して、互いに疑心暗鬼の六国の同盟を成立させた。 

 

 まず褒めて話に引き込む
 北方の燕を手始めに各国の王と謁見する。彼が駆使した弁論の詳細は『史記』の蘇秦伝に詳しいが、それによると、まず、相手の国力を褒めちぎるのである。「土地は広く兵力も十分。土地は肥沃で軍糧も大丈夫。山、川の天然の要害もある」。さらに国によって自慢の特産を高く評価する、「貴国にまさる国はありますまい」。
 褒められれば、だれしも、「うん、それで」とその先に耳を傾ける。術中にはまる。そして本題に移る。「そこでです。隣国を信頼して6か国の同盟を成立させれば、大国とはいえ秦は恐れる存在ではない」
 しかし、覇を競い合うライバル国をやすやすと信頼できるわけではない。疑心暗鬼が募る。燕の文侯は言う。
 「君の議論はもっともだ。しかしわしの国は小さい。隣り合う趙、斉は強国だ。君が必ず同盟を成立させるなら、君の説に乗ろう」
 どこも事情は同じだ。各国の説得をいかに短時間で成立させるかがカギとなる。

  

 決め手は相手の自尊心刺激
 韓の恵宣王にも、国力を褒める同じ話術を使い話に引き込んだが、王は二の足を踏む。ことを荒立てず、西に接する秦に臣下の礼をとって仕えるのが得策か、と逡巡する恵宣王に対して、蘇秦は究極の殺し文句を吐いた。
 「よく考えられますように。秦に仕えれば彼らは領土の割譲を求めてきます。さらには後日、侵略の禍いを受けます」。ここまでは理屈での説得だが、ここから口調が変わる。
 「たとえ、鶏口となるも、牛後となるなかれ(国は小さくともトップでいるべきで、大国の尻尾としてふり回されてはいけない)という言葉があります。大王が牛後の汚名を着るのは、私のひそかに恥じるところです!」
 恵宣王はこれを聞くと、俄然色をなして肘をまくり目を怒らし、腰の剣に手をやり天を仰ぎ言った。
 「不肖のわしだが、秦には決して仕えない。いま先生から貴重な忠言をいただいた。国を挙げてご意見に従いましょう」
 説得において、相手の自尊心を刺激することは、これほど効果絶大なのだ。(この項、次回に続く)
 
 
(書き手)宇惠一郎 ueichi@nifty.com
 
※参考文献
『世界文学大系 史記★★』小竹文夫・小竹武夫訳 筑摩書房
『中国古典文学大系7 戦国策・国語・論衡』常石茂・大滝一雄編訳 平凡社

 

 

故事成語に学ぶ(19) 唇亡ぶれば歯寒し前のページ

故事成語に学ぶ(21) 騏驎(きりん)も衰えれば駑馬(どば)これに先立つ次のページ

関連記事

  1. 危機への対処術(24) 危機だからこそ「民」の力を(渋沢栄一)

  2. 後継の才を見抜く(5) 徳川二代目・秀忠の大失態

  3. 時代の転換期を先取りする(17)ローマ世界消滅

最新の経営コラム

  1. 朝礼・会議での「社長の3分間スピーチ」ネタ帳(2024年11月20日号)

  2. 第七十八話 展示会後のフォローで差をつける「工場見学の仕組みづくり」

  3. 第219話 少人数私募債の相続対策

ランキング

  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5
  6. 6
  7. 7
  8. 8
  9. 9
  10. 10
  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5
  6. 6
  7. 7
  8. 8
  9. 9
  10. 10

新着情報メール

日本経営合理化協会では経営コラムや教材の最新情報をいち早くお届けするメールマガジンを発信しております。ご希望の方は下記よりご登録下さい。

emailメールマガジン登録する

新着情報

  1. キーワード

    第75回 アマゾン・ゴー(Amazon Go)
  2. 教養

    第106回「戦前の大金持ち」(著:出口治明)
  3. 社長業

    第27回 社長と孤独
  4. 製造業

    第300号 5年先を意識した改善
  5. マネジメント

    第286回「羹に懲りて膾を吹く」な
keyboard_arrow_up