menu

経営者のための最新情報

実務家・専門家
”声””文字”のコラムを毎週更新!

文字の大きさ

マネジメント

万物流転する世を生き抜く(21) 英雄ナポレオンの運命の分岐点

指導者たる者かくあるべし

 歴史をひもとけば、英雄と呼ばれた男は数知れない。だが英雄のままで生を全うした例を聞かない。
 
 稀代の革命児、国民を鼓舞し危機から救済した時代の寵児、傑物たちはみな、陰惨な最期を迎える。「英雄」という単語は「悲劇の」という哀愁を帯びた形容句で修飾されるのが常なのだ。
 
 何故か?
 
 絶頂期に、「余の辞書に“不可能”の文字はない」と吐いたとされるナポレオン・ボナパルト(1769年〜1821年)も例外ではない。
 
 イタリア沖のフランス領コルシカ島の地方貴族の家に生まれ、絶対王政を打倒したフランス革命(1789年)後の混乱期に軍人として世に出た男は、その軍事的天才を遺憾なく発揮して国内の政治的混乱を収め、1804年には世襲を前提とした皇帝に上り詰めた。
 
 当初は王党派志向の強かったナポレオンだが、この頃には「自由、博愛、平等」というフランス革命の理想の守護神としてフランス国民の圧倒的支持を集めていた。
 
 皇帝となったナポレオンは、軍事力を背景にフランス革命の理想による欧州の統一を目指すようになる。
 
 しかし、こうしたフランスの革命的動きは、王制を維持するオーストリア、プロイセン、ロシアなどヨーロッパ諸国に大いなる危機感をもたらした。
 
 英国は、不安感をテコに各国を組織してフランス包囲網を執拗に構築し、ナポレオンに対抗した。
 
 英国も王制をとるとはいえ、すでに市民の力で王権を制限する立憲君主制への市民革命を成功させている。
 
 英国の真の思惑は、体制問題にはなかった。産業革命によって工業国家として製品輸出先の欧州大陸に築いた自国の経済支配の優位をナポレオンに奪われたくないことにあった。
 
 英国の執拗な抵抗にも関わらず軍事侵攻で欧州の中央部をほぼ手中にしたナポレオンは1806年、支配下の各国に英国との貿易を禁じる「大陸封鎖令」を発動する。
 
 しかし4年後、ロシアは封鎖令を破って英国との貿易を再開する。
 
「ロシアはわれわれに不名誉か戦争かを選べという。結論は決まっている。進軍しようではないか」。
 
 1812年、ナポレオンはフランス軍に同盟軍を加えた60万の大軍でロシアに侵攻することを決断する。
 
 これが英雄ナポレオンの悲劇への分岐点となった。(この項、次回に続く)
 
 ※参考文献
 
『ナポレオン上・下』エミール・ルートヴィヒ著 北澤真木訳 講談社学術文庫
『ナポレオン自伝』アンドレ・マルロー編 小宮正弘訳 朝日新聞社
『ナポレオン一八一二年』ナイジェル・ニコルソン著 白須英子訳 中公文庫
『ナポレオン言行録』オクターヴ・オブリ編 大塚幸男訳 岩波文庫
 
 
  ※当連載のご感想・ご意見はこちらへ↓
  著者/宇惠一郎 ueichi@nifty.com 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

万物流転する世を生き抜く(20) 人を制する者は天下を制す前のページ

万物流転する世を生き抜く(22) 容れられなかったナポレオン側近の諌言次のページ

関連記事

  1. 故事成語に学ぶ(9)薪(たきぎ)を積むが如し(上)

  2. 失敗に原因あり(8) 政治と経営は結果責任

  3. 挑戦の決断(15) 華人の政権を取り戻せ(中国明朝を開いた朱元璋)

最新の経営コラム

  1. 第183回 菊寿司 @福島県相馬市原釜 ~地魚主体の握り

  2. 第七十一話_禁断の組み合わせから地域活性化へ - 和歌山県田辺市のうなぎ販売展の革新的ビジネスモデル

  3. 第179回 米国に制裁されても反米しない華為

ランキング

  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5
  6. 6
  7. 7
  8. 8
  9. 9
  10. 10
  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5
  6. 6
  7. 7
  8. 8
  9. 9
  10. 10

新着情報メール

日本経営合理化協会では経営コラムや教材の最新情報をいち早くお届けするメールマガジンを発信しております。ご希望の方は下記よりご登録下さい。

emailメールマガジン登録する

新着情報

  1. 社員教育・営業

    第33回 「ルールの前に姿勢あり」
  2. 経済・株式・資産

    第49回 奇をてらうことのない愚直な経営が、一流企業への道を歩ませた「ベルク」
  3. 社員教育・営業

    第52回 「職場におけるホスピタリティー」
  4. ビジネス見聞録

    講師インタビュー「儲かる会社をつくる技法」横田尚哉氏
  5. マネジメント

    第135回 年齢差を大事にする
keyboard_arrow_up