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- 故事成語に学ぶ(23) 家に常業あれば飢(き)なりと雖(いえど)も餓(う)えず
バブル対処の明暗
だれもが地価の高騰と右肩上がりの株価に踊った1980年代終盤のバブル時代。筆者の中学時代の旧友たちは中小企業主の二代目が多かったが、バブルが崩壊するや、その多くが路頭に迷った。本業をおろそかにし、面白いようにあぶく銭を生み出す財テクに走ったツケがまわってきた。
そんな中で一人の鉄工業者の友人は、「こんな時代は長続きしない」という父親の戒めを守った。「機転の利かないやつだ」との級友たちの嘲笑を浴びながらも、銀行からの再三にわたる投資の誘いを断って本業に精を出し、それから30年、父親の代よりも会社を大きくした。
秦の始皇帝や諸葛孔明など多くのリーダーたちに、後世大きな影響を与えた思想家・韓非(かんぴ)が、国家統治の基本を説く中で、表題の語を「ことわざによれば」として引用し、戒めているから、昔から同じように家業を放り出しバブルに踊る愚が存在したのだろう。
法なき国は滅びる
韓非が引用したことわざの全文は、次の通り。
〈家に常業あれば飢なりと雖も餓えず、国に常法あれば危なりと雖も亡びず〉(家にきまった仕事があれば、凶作となっても飢えることなく、国に揺れ動かない法律があれば、危険が迫っても滅びることはない)
国の治め方を説く韓非が『韓非子』飾邪篇で強調したかったのは、その後段にあるようだ。その実例を歴史の中から数え上げている。
〈趙国が「国律」(法)を掲げていたころは人材も多く軍も強かったが、国律がおざなりにされると政務を執るものが弱くなり、国土は日々削られていった〉
〈燕国も法の規律が失われると、君主の側近がいがみあって統制が利かなくなり隣国に制圧された〉
「これほど国の強弱の原因ははっきりしているのに、世間の君主は法を重視しようとしない」と嘆いている。
人治の危険
韓非が終始強調するのは「法治」の思想である。国家、組織において法がおざなりにされるとどうなるか。彼は言う。
「君主(リーダー)がきまった法律を棄てて自分勝手な考えに従っていると、臣下(部下たち)は自分の知識や能力を飾り立ててリーダーにとり入ろうとする。そうなると法律禁令の原則は成り立たない。でたらめな思いつきのやり方がまかり通って、国(組織)を治める正道は失われる」
情による「人治」の危険である。
そして、法に従って運営されていた時代の魏国では、「功績のあった者には必ず賞を与え、罪ある者には必ず誅罰を加えた」
でたらめな賞罰が行われるようになると、だれもリーダーの言うことを聞かなくなる。それに続いて何が起きるかは、言わずもがなである。
(書き手)宇惠一郎 ueichi@nifty.com
※参考文献
『韓非子1』金谷治訳注 岩波文庫