◆昭和浴場◆
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よく見れば、煙突にも「マジック温泉」の文字が
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それでも客を集められる秘訣は、他の銭湯と同じ入浴料で、プロのマジシャンのマジックが見られることだ。実は、昭和浴場のオーナー、タジマジックさんは、今も年間500件のショーをこなすプロマジシャン。番台に座っている時は、客のリクエストに応じ、休憩室でマジックショーをしている。
実際に、筆者もマジックを見せてもらった。私が手に握った1000円札が5000円札に変わったり、渡した免許証がとじられた封筒から現れたり、トランプの束から指定した「黄色のマーカーで△を描いた7のスペード」が出てきたり…。ハイレベルなマジックが惜しみなく繰り出されていく。通常、タジマジックさんのショーを見るには、6000~12000円はかかるという。それが、ここに来れば、450円の入浴料だけで見られるわけだ。
休憩室でのマジックショーを始めたきっかけは、「自分が生まれ育った銭湯をなんとか繁盛させたい」と考えたことである。ご存じの通り、町の小規模な銭湯は、内風呂の普及やスーパー銭湯の台頭によって、客足が遠のく一方。昭和浴場も例外ではなかった。それに危機感を感じ、8年前に、先代のオーナーだった実父が亡くなり、跡を継いだのを機に、試しにマジックの披露を始めたそうだ。
その試みは当たり、多くのメディアで紹介されると、遠方からファンが集まるように。同時に、近隣の住民もマジック目当てに訪れるようになった。「自転車で来るお客様が多いのが、うちの特徴。『どうせ行くなら、マジックが見られる銭湯に行こう』となるのでしょう」(タジマジックさん)。また、若いカップルのような、今まで銭湯に来ていなかった層も集まるようになったそうだ。
人気の要因は、「プロのマジックが安い値段で楽しめる」ことはもちろんだが、「開催頻度が多く、思い立ったらいつでも見られる」こともあるだろう。タジマジックさんはたいがい番台にいるので、開催日はほぼ毎日といっていい。「せっかく来たのに、今日はやっていないのか…」と期待を裏切ることがないわけだ。
通常、イベントは、希少価値を保つために、開催頻度が少ない方が良いと考えられる。しかし、ネットや携帯端末の普及で、買い物でも映像の閲覧でもすぐにできる今、人は、「思い立ったらすぐ見たい」願望が強くなっている。そんななかでは、昭和浴場のように、頻度を増やして、いつでも楽しめる環境を用意した方が良いのかもしれない。開催する側にとっては楽ではないが…。出し惜しみしても良さそうなプロマジシャンが実行しているのだから、他の店のイベントならなおさらだろう。(カデナクリエイト/杉山直隆)
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