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交渉力を備えよ(41) 「決断と実行」で日中国交正常化交渉に挑む田中角栄

指導者たる者かくあるべし

 日米繊維交渉を成功裏に決着させ、その交渉政治力を遺憾なく発揮した田中角栄は、余勢をかって田中派を立ち上げ、翌1972年(昭和47年)7月の自民党総裁選に勝利する。ライバルの外相、福田赳夫を破ってのことで、佐藤栄作後継の総理となる。

 沖縄返還を花道に総理を引退するを佐藤は福田を後継に押していたが、決選投票までもつれ込んだ総裁選で勝利をもたらしたの最大の要因は、田中と大平正芳、三木武夫の三者連合だった。これに中曽根康弘も合流した。

 総裁選直前の三者会談で政策合意が成立する。合意書の冒頭にこうある。

 「われわれは歴史上かつてない重大な転換期に直面している。これを乗り切るため、古い政治と行政の壁を破り、国民のエネルギーを結集する必要がある」

 歴史上かつてない重大な転換期――。国際政治場面では東西両陣営の冷戦構図が続いていたが、中国とソ連は対立を激化させ、中国は体制の違いを乗り越えてアメリカに接近。この年2月にはニクソンが電撃的に中国を訪問した。

 ベトナム戦争は泥沼化し、米国の敗色も濃厚となっていた。

 貿易場面でも、繊維摩擦に見られたように米国の貿易赤字が、日米間に摩擦を激化させつつある。米国はしゃにむにドル防衛に乗り出した。

 こうした激動の中で、とりわけ、新首相の田中が懸念したのは米中接近だった。日米安保の質の変化も不可避だ。

 「このままでは、日本の地位は米国と中国の間で沈んでしまう」

 田中・大平・三木の政策合意事項の六項目のひとつに日中国交正常化問題も盛り込まれている。

 《日中国交正常化は、いまや国論である。われわれは、政府間交渉を通じて、中華人民共和国都の間に、平和条約を締結することを目途として、交渉を行なう》

 田中は新政権の外相に盟友の大平を起用する。早速、大平を官邸に呼んで言った。

 「日中は、政権を取ったいま、やらなきゃ進まない。一番勢いのあるときにやるんだ。機を逃せば、むこう何十年もやれない。きみ、やろうじゃないか」

 大平は答える。「決意をもって、当たろうや」

 日中国交正常化交渉はこの瞬間、「決断と実行」を掲げる田中政権の最優先課題となった。 (この項、次回に続く)

 (書き手)宇惠一郎 ueichi@nifty.com

 

※    参考文献

『早坂茂三の「田中角栄」回想録』  早坂茂三著 小学館
『田中政権・八八六日』中野士朗著 行政問題研究所
『田中角栄の資源戦争』  山岡淳一郎著 草思社文庫
『記録と考証 日中国交正常化・日中平和友好条約締結交渉』石井明ら編 岩波書店
『求同存異』鬼頭春樹著 NHK出版

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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